カテゴリー「おすすめ本【や行】」の記事

2008.07.27

『よしながふみ対談集 あのひととここだけのおしゃべり』 よしながふみ

よしながふみが、いろいろな人と、漫画について語り合った、対談集。
お相手は、やまだないと、福田里香、三浦しをん、こだか和麻、羽海野チカ、志村貴子、萩尾望都。

前半は、BL関係と昔の漫画話が多く、知らない作品、知らない作家さんが多かったです。
どうしても脚注を追うことが多く、なかなか進みが遅かったです(つまらないわけではない)。
でも脚注では「やおいの語源は、手塚治虫!?」などと、びっくりするような知識が手に入りました。

中でも三浦しをんに期待していたのですが、なんと一人だけ2回も登場するという、破格(!?)の扱い。
語尾に「!!!!」などと、エクスクラメーションマークが多用されているのは、彼女だけなんですよね。
他の人との対談に比べて、テンションが高いのが分かりましたw

よしながふみの代表作として、『西洋骨董洋菓子店』の話題が多く出てきました
今ちょうど「ノイタミナ」でアニメを見ているところなので、タイムリーな話題でした。

ドラマとは違い、原作に近いであろうアニメでは、魔性のゲイという設定もそのままです。
それでも「BLではなく、ゲイの出る少女マンガ」という位置づけなんだとか。

BLに関しては、必ずしも共感できないのですが、BL、少女マンガ、少年マンガの違いについて、皆さんが深く考察されているのが、興味深かったです。

マンガを描くということ、漫画家として生きることの苦悩も、かなりぶちまけて語ってくれていると感じました。

『ハチクロ』は読んでいたので、羽海野チカとの対談は、さくさくとテンポよく読めました。

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2008.07.14

『愚者のエンドロール』 米澤穂信

古典部シリーズ、第2弾。
夏休みという設定で、なんともまったりとした空気でした。

文化祭の企画で、ミステリ映画のビデオを撮影していた、2年F組。
ところが結末を仕上げる前に、脚本担当が、体調を崩してしまいます。

なんとか結末を推理し、文化祭当日までに、映像を仕上げたい2年生。
千反田のつてで、そのビデををみた古典部の面々が、結末を推理するサポート役となり・・・というお話。

自分たちが現場に行くこともなく、ビデオや資料、そして関係者の証言という、与えられた情報だけで推理をしていく。
ひとりが自論を展開しては、古典部のメンバーが矛盾点を突く。
アームチェアディテクティブのスタイルです。

普段は、何事にも距離を置いている折木奉太郎ですが、今回は少し態度が違っています。
珍しく積極性を見せ、自分を誇っていくあたりは、高校生だなぁと感じました。

逆に千反田えるの積極性(強引さ?)が、今回は控えめだなとも。

本郷の精神そのままの、人が亡くならないミステリで、夏休みの一エピソードという、ちょっと気の緩んだような雰囲気でした。

最後に、劇場の見取り図にあったという、途中でかすれた設計士の名前「中村青」。
館シリーズを匂わせるネタでしたが、綾辻行人のと親交があるのでしょうか。

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2008.06.23

『少年陰陽師 愁いの波に揺れ惑え』 結城光流

シリーズ23冊目にして、玉依編第2弾。

都を襲う、地震と長雨。
天照大御神が、斎宮恭子女王に光臨し、伊勢に脩子を連れてくるよう、勅命を伝えます。
帝は、脩子のお供として、安倍晴明と彰子に、随行を要請し・・・というお話。

相手を思いやるからこそ、相手を傷つけてしまう。
大切だからこそ、距離を置いてしまう。

いじらしく、切ないすれ違いが続きます。

昌浩が暗かったので、全体的に元気のない巻でした。
その分、他のキャラクターたちが、表に立って描かれていた気がします。

成親と敏次のシーンは楽しく、一服の清涼剤なので、もっと増えると嬉しいです。

政治の世界では、道長が際立っていて、いまひとつ存在感の薄かった帝。
今回は、その人となりが少しうかがえた気がします。

あとがきを読んで。
全体のラストはちゃんと、決まっているんだなぁと、改めて思いました。

もちろんシリーズ開始当初は、決まっているんでしょうけれど、これだけ長くなってくると、紆余曲折あるのでは、と。
方向が変わってしまったり、いつまで経っても落としどころがなくなってしまいそうですが、きちんとラストを見据えてすすめているのですね。

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2008.05.29

『少年陰陽師 あまたのおそれをぬぐい去れ』 結城光流

シリーズ第21巻。
玉依編のスタートです。

出雲から都に戻ってきた、昌浩たち。
夜警もなく、素直に帰宅する、穏やかな日々が進んでいきます。

お互いにお互いを思いやりながら、なかなか隔てが超えられない、昌浩と彰子とか。
もっくんと昌浩と敏次の、三角関係とか。
勾陣ともっくんの、唯一対等に語り合う姿とか。

嵐の前の静けさというか、とにかく穏やかなエピソードがいっぱい。
激しい苦闘もなく、ほのぼのした展開です。

新章の始まりということで、特別の展開がなかったとも言えますが。
前作『少年陰陽師 果てなき誓いを刻み込め』の、出雲の経験からくる感情が、色濃く登場人物に残ったままでした。

人でもなく、さりとて神でもなさそうな、謎の女とか。
斎と益荒の意図とか。

あれこれ含みだけは、ちりばめられていたので、今後の展開に期待、といったところ。

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2008.05.08

『氷菓』 米澤穂信

古典部シリーズ1作目にして、デビュー作。
第五回角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞受賞作だとか(長い)。

淡々としているんだけれど、続きを読みたくさせる雰囲気がありました。

やらなくていいことは、やらない。
省エネな生き方を貫いていた折木奉太郎ですが、姉の命令(?)で古典部に入ることになってからは、あれこれと活動を余儀なくされ・・・というお話。

熱くならない。
なるべく論理的に、合理的に物事を処理しようとする。
米澤穂信らしい、主人公のキャラクター設定です。

名家のお嬢様にして、好奇心旺盛な千反田が、謎解きへの原動力となり。
好敵手の里志が、その後押しをする。
バランスの取れた、キャラクターの配置となっています。

ただひとり、折木を目の敵とし、里志に好意を寄せるという、伊原のポジションが微妙でした。
今回に限っては、あまりその設定が活かされていなかったような。

こういう役回りの人がいると、シリーズの今後の展開には使えそうですね。

それから最後まで、古典部の活動がどういうものなのか、が分からなかったです。

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2008.04.21

『たすけ鍼』 山本一力

派手なエピソードはないのですが、下町の情の篤さ、粋な計らいに、じーんとくる物語です。

深川の鍼灸師・染谷は、「ツボ師」の異名をとる、腕前の持ち主です。
また、そのまっすぐ通った公正な心も、有名です。

鍼と灸よりも、薬剤の治療が適していると思えば、隣の昭年医師を紹介する。
とにかく患者のためになることを第一に考え、人々から信頼の厚い人物でありました。

今日も染谷の元へは、さまざまな患者が訪れ、事件をももたらすのでした。

過剰な痛みや熱を伴わず、絶妙な治療を施す、染谷。
それによって救われていく患者たちの、幸せそうなこと。
現代にもこんな人がいたら、と思います。

いい人の染谷とは対照的に、昭年には、あけすけなところがあります。
このお互いを補い合う組み合わせが、医師としても、人としても面白いです。

名声を求めてのことでもなく。
身代を潰すような無理なことも言わず。
人々は、自分の出来る範囲で、粋な計らいを積み重ねていきます。

そこには相手への全幅の信頼があってこそ。
その気持ちに、最後はじーんとするお話でした。

最後に気になることが一つ。
メインの事件であった、野田屋のご主人の件が、全く解決していないように思います。
それだけがなんだかすっきりしませんでした。
これは続きがあると考えてよいのでしょうか。

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2008.03.24

『きもの文様図鑑-明治・大正・昭和に見る』 長崎巌 監修/弓岡勝美 編

着物の文様を、テーマ別にまとめた図鑑。

繻子地に刺繍された、花束。
手描き友禅の、水連。
薄、萩、桔梗、女郎花をまとめた、秋草。
塩瀬地の、雅な、御所車。
紋綸子地の、結文。
梅、菊、蘭、竹を散らした、四君子。

全頁フルカラーの写真が美しく、眺めて堪能していました。

文様の成り立ちや、良く使われる季節などの解説が添えられており、勉強になります。
解説に登場する言葉は、古きよき日本語。

今回は初めてなので、冒頭から読んでいきましたが、そういう読み方でなくてもいい本だと思います。

家に置いておいて、手にするたびに見方を変え。

文様の写真だけを眺めたり。
図案の妙を堪能したり。
気になったページは、解説も読み込んでいったり。

そんな自由な読み方がふさわしい、図鑑でした。

今夜、地球の裏側でさまのレビューでも、

眺めているだけでも楽しくて、手元に置いておきたい一冊。

と、褒められていました。

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2008.03.14

『あなたと、どこかへ。 eight short stories』 吉田修一/角田光代/石田衣良/甘糟りり子/林望/谷村志穂/片岡義男/川上弘美

特別な不満があるわけではないけれど、なにかもやもやするような。
そんな現状が、雨が上がっていうように、晴れていく物語たちです。

8人の作家の手による、違った世界を楽しむことが出来ます。

表紙を飾る、青い車のナンバープレートには「TEANA」の文字。

裏表紙には、

日産TEANAスペシャル・サイト発信

との文章が。

これに先に気がついてしまったせいか、車にまつわる描写からは、どうしても広告的な臭いがしてしまいました。
内装への満足感とか、ドライビングの快適さとか、外装のかっこよさとか。

ただそこに目をつぶりさえすれば、さらっと読める短編集ではありました。
爽やかで、それぞれ読後感もよいです。

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2008.02.21

『梅咲きぬ』 山本一力

幼き玉枝が、さまざまな経験を積みながら、江戸屋の4代目女将「秀弥」として成長していく物語。

粋で凛とした、美しい女性たち。
心熱き肝煎衆。

江戸屋は深川を大事にし、それがまた江戸屋に返ってくる。
魅力溢れる、深川の人たちがいっぱいです。

温かい人情に、じんとくる一冊でした。

つらいことと向き合うからといって、自分を哀れんではなりません。それを始めると、いつまで経ってもつらいことから抜け出ることがかなわなくなります

たとえ相手に非があろうとも、あからさまにそれを言い立てたり、物言いや顔つきを変えたりしてはなりません。ひとはだれしもが、誇りを身のうちに秘めて生きていますから

ほんのちょっとした心遣いで、ぐんと楽になることが世の中にはなんぼでもある。

母である先代「秀弥」に、踊りの師匠、山村春雅。
周りの大人が折に触れ、玉枝に語る言葉には重みがあり、現代人の我々にもずっしりときます。

何もかもが粋で、母と娘である前に、老舗の風格ある女将と、その後継者の物語でした。
父親の存在も希薄ですし。

玉枝の女将としての成長と、八木仁之助への思慕が、一つのテーマだと思います。
そこでどうしても引っかかったのが、江戸屋を大切にする女将たちの、後継者への備えが希薄であることです。

玉枝が一人前の女将になるのには、幼い頃からさまざまな経験を積んでいきます。
江戸屋の仕事にかかわるのは、9歳からですし、それより前から、踊りの練習を通じて、人としての成長を重ねていきます。
一朝一夕に、女将になれるわけではないのです。

それでありながら、先代「秀弥」は38歳で出産。
4代目「秀弥」は、四十路を過ぎて独身。
多くの従業員を抱える、老舗の女将としては、いささか配慮に欠けるのではと、ちょっと引っかかってしまいました。

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2008.02.08

『インシテミル』 米澤穂信

『このミステリーがすごい! 2008年版』、国内11位。
こちらの評にもありましたが、『春期限定いちごタルト事件』などの今までの作風とは、違った作品です。
より推理小説な、スリリングな仕上がりでした。

地下に作られた、クローズド・サークル"暗鬼館"。

人を殺して、犯人となるか。
殺されて、被害者となるか。
犯人を推理する、探偵と助手となるか。
推理を手助けする、証言者となるか。

人の死にまつわる作業によって、ボーナスによる加算と、ペナルティによる減額。

11万2千円という、尋常ならざる時給に秘められたのは、異常な実験でした。

引き返せなくなった12人は、暗鬼館の自室へと散らばっていくのですが・・・というお話。

謎の機構が、高額な報酬と引き換えに、人の残酷さを露呈させるのは、「ライヤーゲーム」のようです。

弱みを見せまいと、情報の少ない自己紹介から始まるので、最初は人物を掴みにくい感はありました。
話が進み、事件が起きていくにつれ、リーダーやグループが生まれてくるので、分かりやすくなっていきます。

機構の意図も、事件の真相も、謎は尽きず、最後まで興味深く読むことができます。

浮世離れしたお嬢様、須和名の持つが最後に見せる毒には、米澤穂信らしさも。
阿藤先生、伊藤先生、宇藤先生といったユーモア。
死者が多い割には重過ぎず、軽妙さを保ちつつ、しっかりミステリになっています。

事件の謎解きも楽しく、米澤穂信の新しい一面を見た気がしました。

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2008.01.27

『いっぽん桜』 山本一力

花を絡めた、4つの物語。
じんわりと泣ける、江戸の人情物語です。

「いっぽん桜」と「萩ゆれて」が、特に胸に来ました。

大店を守り立ててきた自負のある長兵衛は、主から早すぎる定年を命じられます。
表面的には受け入れつつも、納得できないままの引退。
「いっぽん桜」では、屈折する長兵衛が描かれています。

妻の薬代を捻出するため、不本意ながら賄賂を受け取った父・清志郎。
それが発覚し、切腹の処分を受けました。

裏事情があって、清志郎に関しては、真実とは異なる誹謗中傷が流れていきます。
それに耐えかねた息子の兵庫は、遂に挑発に乗り、噂を流している隼人と木刀で打ち合うことに。

「萩ゆれて」では、隼人にこてんぱんにのされ、鬱屈した思いで湯治をする兵庫を描いています。

どちらの主人公も、男としての挫折を抱えています。
しかし、それを見守る家族や、支えてくれる人々が必ずいるのです。
その人の優しさや暖かさに、思わず涙がこぼれてしまいました。

時代物は、込み入った役職、時代特有の物の名称など、ちょっと読みにくい苦手感を持っています。
本書はすっきりとした描写で、キャラクターも生き生きしているため、そのような混乱はほとんどありません。
一つ一つは短い物語でありながら、すっと世界に入り込むことができました。

どの話も心にほのぼのとした思いを残す。温かみのある作品だった。

という、のほ本♪さまのレビューがきっかけで読みました。

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2007.12.11

『やまだ眼 世の中の微妙な真実』 山田一成/佐藤雅彦

お笑いコンビの山田一成が、その瞳を通して見た、世の中。
その斬り口に、佐藤雅彦が解説をつけます。

毎日新聞の連載に、書き下ろしネタを加えた本です。

「いつもここから」のネタと同じく、「あー、あるある」と感じるネタが、ほとんど。
そしてどのネタにも、受け手である山田一成の、戸惑いや困惑が、垣間見えます。

こういうこと、あるよね。
でも、どうしようもないよね。

という諦念がそこはかとなく漂い、独特のリズムを持った作品になっています。

また、添えられた佐藤雅彦の解説も、いいです。
『プチ哲学』に代表されるように、この方も、独自の目線を持った方。
切れ味鋭い、刃の交錯のような、クールなコンビとなっています。

4章の終わりには、新聞連載時のレイアウトが、そのまま掲載されています。
タイトルデザインから、フォントサイズのバランスから、拘りのコーナー。
贅沢を言えば、このデザインのまま読んでみたかったです。

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2007.11.30

『彩雲国物語 隣の百合は白』 雪乃紗衣

シリーズ番外編の、短編集。
シリアスな最近の作品よりも、コメディの比率が高かった、初期の作品寄りで、笑えます。

例えば「恋愛至難争奪(バトル)!」では、武術試合が行われます。
精鋭羽林軍武官たちの士気を高めるためとはいえ、他の業務をストップさせ、内朝を戦場に大改造する。
後始末にも人手と費用がかかるわけで、国の建て直しをシリアスに考えている最近の路線では、やりにくい話です。

でも、このノリが最初の魅力であったと思うし、たまにはこういう話があってもいいと思います。

特に「地獄の沙汰も君次第」が、面白かったです。

鄭悠舜、紅黎深、黄鳳珠の、伝説の国試の顛末が、とにかく楽しい。
まだ若き三人の個性が、生き生きとぶつかり合っています。
特に鳳珠に、こんな初心で微笑ましい時代があっただなんて。

絳攸こと、コウとの出逢いも明らかになりましたし。
コウが、とてもまっすぐで可愛らしく、微笑ましかったです。
それが行く末、あのような堅物に・・・・・。

百合と黎深の、壮絶口げんかも痛快です。
初期の頃は秀麗が、こういう楽しいやり取りを披露していましたよね。

本編では味わえない楽しさを提供する。
という番外編の役目を十分に果たした1冊だと思います。

黎深は唯我独尊キャラ、というのは設定として分かっていましたが、具体的なイメージはあまり持っていませんでした。
登場シーンも少ないですし、邵可や秀麗に甘く、絳攸に厳しい、変な叔父さん、というくらいしか。

でも、こうやってじっくり語られて、その我が儘さと、国政へのやる気のなさ、邵可第一の生き方がよくよくわかりました。
そして魅力あるキャラクターだなと、初めて思いました。

おまけのショートショート「幸せのカタチ」も、微笑ましかったです。

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2007.11.20

『白い巨塔』 山崎豊子

『白い巨塔』と『続 白い巨塔』を1冊にまとめた、新装版。

2段組967ページのボリュームは、手を取るまでに、いくばくかの気合を必要としました。
しかし読み始めてみると、最後まで止まらない面白さでした。

国立大学付属病院、医師会。
医療に携わる者の、思惑と汚い手口。
一人ひとりの思惑や、駆け引きを、余すことなく描ききっており、何度も映像化されるのが頷ける、深みのある作品です。

初出が1963年と古い作品でありながら、現代にも通じる数々の指摘。
人は権力の前に弱く、金の前に弱く、それでもどこかに良心がある。
古さを感じさせない、力のあるストーリーでした。

唐沢寿明主演のドラマ「白い巨塔」と、田宮二郎主演の映画「白い巨塔 劇場版」
両方を観て、大まかな流れを知っているにもかかわらず、はらはらさせられてしまう描写力。

特に『続 白い巨塔』の終わり方は、分かっていてもドラマチックでした。

どろどろとした感情をさらけ出して描かれているのに、財前も他の関係者たちも、最後は憎みきれないんですよね。

田宮二郎主演の映画では、腑に落ちなかった点も、原作で全て網羅されています。
映像化されていないシーン、映像と異なるシーンも多々あり、改めて原作を読んでよかったと思いました。

田宮二郎主演の映画よりも、唐沢寿明主演のドラマの方が、原作に近かったです。

個人的には、東佐枝子の振りかざす正義に、ひっかかるものがありました。
里見三知代を非難していますが、あくまで自分は、両親の豊かな財力の元、暮らしているのですから。

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2007.11.06

『平成講釈 安倍晴明伝』 夢枕獏

桃川版1冊と、玉田版2冊。
実在する速記本を基にして作り上げた、『夢枕版安倍晴明』です。

速記本とは、舞台で演じられた講談を、そのまま書き残した本。
元が台詞なので、エピソードが面白く、台詞のテンポが良いです。

今回の晴明のキャラクターは、『陰陽師』シリーズの、クールで秀才というイメージとは、必ずしも一致しません。

けれども、語り口、文章は、やはり夢枕獏の世界。
最後まで楽しく読みました。

「狐と人間の子供が、なぜ人間なのか」とか。
「史実から計算すると、年齢が合わないぞ」とか。
平成の感覚からの矛盾の指摘も欠かしません。
そのかわし方や解説にも、ユーモアがあります。

桃川版では、髪の毛が真っ赤で、親も悲しむ悪ガキ。
玉田版では、年ももう少し上で、容貌の整った秀才です。

それぞれ元ネタの違いを比較したり、より面白い方の筋を採用したり。
最終的には、独自のアレンジを施しながら、"夢枕版"が完成していきます。

私生活の話題から入り、「語るように書く」文章は、本当に講釈を書き取ったもののようでした。

個人的には、晴明は、クールな秀才であって欲しいです。
が、今回の、己で抱えきれない力を持った、悪ガキ"安倍晴明"も、夢枕獏の筆になると、それはそれで魅力がありました。
まだ権力を知らない、若き力が初々しいです。

絶体絶命と思われるような危機があったり、はらはらどきどきするような展開も、やっぱり面白かったです。
さすが、講談として語り継がれてきただけのことはあります。

時々、原文を引用しているので、最初は「難しそう」とドキッとしました。

これが読み始めてみると、さほど難しく感じません。
講談をそのまま速記した本だから、テンポが良いんですよね。

特に、尾花丸(後の晴明)と蘆屋道満の問答は、語り手の勢いまでも感じさせる、リズミカルな文章でした。

この本では、まだまだ桃川版でいうところの、1/5しか語っていないのだとか。
袴垂保輔、酒呑童子、玉藻前となった大妖狐との戦いなど、まだまだ面白そうな話がいっぱい。
ぜひ続きを書いて(語って)欲しいです。

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2007.10.24

『少年陰陽師 思いやれども行くかたもなし』 結城光流

シリーズ21作目の、短編集。
外伝ならではの、普段見られない一面やエピソードが、楽しかったです。

「百鬼夜行の蠢く場所は」。
彰子のことで動揺する、初心な昌浩。
過酷な状況続きでで、なかなかこういうほのぼのしたシーンがなかったので、嬉しいですね。

成親が出てるのも、嬉しいところ。
味のある兄弟は、もっと出てきて欲しいです。

「思いいやれども行くかたもなし」。
見た目が子供の玄武と、本当に子供の汐姫の挿絵は、ほのぼのする可愛らしさでした。
普段は物事に動じない玄武の、動揺する姿が微笑ましいです。

「疾きこと嵐の如く」。
紅蓮を怖がっている印象が強い太陰ですが、普段はこんな風にぽんぽんと喋る神将なんだなー、と改めて思ったり。
巽二郎は、昔の昌浩に被って、笑えます。

「それはこの手の中に」。
普段は無口な六合の、珍しく饒舌な(といっても、一般からすると言葉少なですが)やりとりとか。
冷ややかで冴え渡る怒りかたとか。

六合ファンとしては、メインをはって嬉しい章でした。

といいつつも、隠れ主役は、守護妖たちだったような気も・・・・・・。
お茶目な守護妖たちは、都でいう雑鬼の代わりを担ってくれている気がします。

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2007.10.11

『彩雲国物語 白虹は天をめざす』 雪乃紗衣

楸瑛を取り戻すため、劉輝は、藍州へと赴きます。
一方、監察御史として、秀麗も藍州へ旅立つことなり・・・・・・。

最近の新刊は、陰謀と伏線の坩堝ですね。
冒頭の、役職と名前の羅列に、必ずこめかみがずきずきします。

いつどこで出たか忘れてしまいそうな人物を、ほとんど説明なしにちょっと出すのですよね。
もう少し、それぞれに対して描写があってほしいな、と思います。

読み進めていけば、世界にはなじんでいきます。
特に分厚さも感じず、楽しく最後まで読めました。

澄ました楸瑛の奮闘振りが、微笑ましかったです。
タンタンの意外な活躍ぶりも。
せっかくいいキャラだったのに、卒業しちゃうのが淋しいです。

読了後に他のレビューを見たのですが、ずいぶんと賛否両論になっているのですね。

元々第1巻だけで完結してた作品だけに、広げていくのは大変なことだと思います。

劉輝は、素晴らしい王となりました。
秀麗は、素晴らしい女性官吏となりました。

この枠が定まっているわけですし。

そもそも、これほどの長期にわたる、シリーズ化の構想は、もっていなかったのではないでしょうか。

ここ数巻は、甘ちゃんで、お友達政権で、コミカルだった物語を、本格的に方向転換していく布石かな、と感じています。
いつまでも秀麗の恋愛事情だけでは、引っ張れないでしょうし。

楸瑛が終わったと思ったら、次は絳攸。
この二山を超えて、しっかり土台を作った、新たな展開に期待したいです。

↓↓↓以下、ネタバレあります↓↓↓
邵可には、娘が二人いる、とか。
邵可が「人の身で天の月を射落とした」とか。
人ならぬ血が流れているというのは、『少年陰陽師』的展開?
さすがに唐突で、びっくりしました。
後から広げていった話だけに、仕方のないことですが。

↑↑↑ネタバレ、終わり↑↑↑

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2007.09.03

『少年陰陽師 果てなき誓いを刻み込め』 結城光流

珂神編、遂に完結。

真鉄の豹変の謎とか。
九流の民はなぜ、これほど恐ろしく、悪意ある大蛇を、崇め奉っていたのかとか。

そういった諸々の伏線をカバーして、落ち着くところに落ち着いています。

ただ、『少年陰陽師 いにしえの魂を呼び覚ませ』『少年陰陽師 妙なる絆を掴みとれ』『少年陰陽師 真実を告げる声をきけ』『少年陰陽師 嘆きの雨を薙ぎ払え』と、長く続いた話が完結したわりには、大いなる感動は得られませんでした。

真鉄と比古。
たゆらと彰子。
安倍晴明と勾陣。
騰蛇と白虎。
昌浩と太陰。
風音と六合。
都の青龍と天后と太裳。

点在するさまざまなメンバーを描いていくので、視点がころころと変わっていき、どっぷりと物語の世界に入り込みにくいのです。

つまらないわけではないんですけれどね。
慌しすぎるというか。

次への伏線と感じられるシーンもありました。
新章はどんな展開になるのでしょう。
楽しみです。

↓↓↓以下、ネタバレあります↓↓↓
真赭(ますほ)に化けていた者の正体とか。
風音の聞いた、助けての声の主とか。
次章で明らかになるのでしょうか。

↑↑↑ネタバレ、終わり↑↑↑

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2007.06.27

『少年陰陽師 翼よいま、天へ還れ』 結城光流

シリーズ初の外伝。
7月発売の同名PS2ゲーム「翼よいま、天へ還れ」から、設定と登場人物を採った物語。

時系列としては、窮奇編のその後にあたります。
太陰はまだ紅蓮を怖がっているし、彰子は安倍邸に来て3月と経っておらず、初々しい状況です。

今回は、失われた踰輝(ゆき)を捜し求める、翻羽(ほんう)越影(えつえい)の天馬を中心とした物語。

天馬たちの諸々の過去から、新たな敵・鳴蛇たちまで。
色々盛り込みすぎて、ばたばたしている感はあるものの、十二神将が皆活躍しているのが、ファンには嬉しいところです。
特に、今までは控えめだった、太裳と天空の翁の描写が増えていたのが、ポイント高いです。

天馬たちの切ない物語も、短い中でよく描いていたと思います。
踰輝(ゆき)と、異端の天馬・越影(えつえい)の、ぎこちない愛情の交わし方とか。
あさぎ桜のイラストにうっとりでした。

今は出版ラッシュのようで、「あとがき」には怒涛の刊行スケジュールが掲載されています。
中でも『少年陰陽師 果てなき誓いを刻み込め』の発売が楽しみです。
珂神編、どのように完結させてくれるのでしょうか。

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2007.06.03

『ルパンの消息』 横山秀夫

第9回サントリーミステリー大賞佳作作品に手を加えたもの。
第5回松本清張賞を受賞してデビューする前の、幻の一作。

他の作品に比べると、世界の重みに欠けるものの、謎は興味深く、面白い作品。
3億円事件もうまく取り込んでいて、タイトルの意味も深いです。

15年前に自殺として処理されていた女性教師の事案は、実は他殺だった?
有力情報を得て、警官たちが集まったものの、時効成立まで24時間しかないのでした。

同じ時効まで24時間でも、きっちり捜査を続けてきた『第三の時効』とは、世界の重みが違いました。
横山秀夫にしては、軽いというか。

決して内容が薄っぺらい軽さではなく、作品自体はとても面白いです。
ただ他の横山秀夫作品が持つ、圧倒的なリアリティの重さには及ばず、新本格っぽい非現実さが混じっているように思いました。

というのも、時効まで24時間、15年も前の事件だというのに、関係者が面白いように集まるのです。
そして、当時のことを細やかに、鮮明に語っていきます。
推理のための環境づくりという、新本格の持つ不自然さに似たものを、少し感じました。

当時の警察は「自殺」と処理したため、ろくな捜査資料が残っていません。
頼みの綱は、キタロー、ジョージ、橘の悪ガキ3人組。

彼らは、期末テストの問題を盗み出す「ルパン作戦」のため、事件当夜、学校に忍び込んでいたのです。
「ルパン作戦」の最中、喜多たちが目撃した情報から、推理を組み立てていく警察。

そこから事件の真相が掴めるのか。
そして時効までに逮捕、起訴できるのか。
緊迫した駆け引きが続きます。

喜多らの思い出話から推理合戦をするのですが、それだけには終わらないのが横山秀夫。
緊迫した駆け引きの中から、事件にかかわる警察官の葛藤や心理も描いています。

新聞記者の「お嬢」こと、国領香澄が読後感の爽やかさに貢献しています。

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2007.05.25

『彩雲国物語 青嵐にゆれる月草』 雪乃紗衣

地方組の燕青×静蘭×影月も良かったですが、今度のタンタン×清雅×静蘭も、新鮮で面白いです。

タンタンは、官吏としては有能ではないかもしれないけれど、秀麗とのバランスがいいですね。
静蘭に予測不能とされる意表のつき方は、うまく肩の力を抜いてくれます。
タンタンに刺激された静蘭の、本音続出も笑わせてくれます。

新たな組み合わせのスタートという感じ。

ただただ憎ったらしかった清雅も、味が出てきました。
いい奴とは180度逆のポジションなことは、変わりないですが。

怖さの裏返しで攻撃的なのか、好きな子をいじめるタイプなのか。
今後、彼の内面が掘り下げられていくのが楽しみです。

新キャラといえば、藍家から後宮に送り込まれてきた、十三姫が好ましいです。
逞しくて、覚悟があって、さばさばしていて、彼女の活躍を引き続き見てみたいです。

地方赴任を描いていたこともあって、描写が少なくて変化が少なかった中央政権組。
特に劉輝は、お飾り的というか、ポジションの全く変わらない状況が長かったように思います。
それが遂に、変化を迎えます。

前の巻から悩んでいた、藍楸瑛。
優しくて、藍家も王も捨てられない彼の、結論が気になるところだし。
妃にと送り込まれた十三姫をどうするのか、劉輝の決断も気になるところだし。

興味深い展開になってきました。

何者かも分からない存在の、シロとクロとか。
面白がりながらも情報をくれる、晏樹とか。
まだまだ明らかになっていない伏線は満載です。

登場人物が増えていくにつれ、ちらっと出てくるだけの再登場キャラに、「これ誰だっけ?」という人物が増えてきたのも事実。
特に省内の人物は、役職と名前だけではぱっと思い出しにくいです。
秀麗との関係とか、もう少し周辺事情も交えて描写して欲しいなと思います。

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2007.05.16

『少年陰陽師 嘆きの雨を薙ぎ払え』 結城光流

珂神編、第4弾。

今までの戦いは、どうも前座っぽさがぬぐえませんでしたが、遂に真打登場という感じ。
本格的な戦闘に入り、事態はどうなっていくのか。

妖狼の兄たゆらは、真鉄寄りの、しっかり者。
ちょっと抜けていて、役に立たないかもしれないけれど、性根の優しい弟もゆらに比べると、とっつきにくさがありました。

今回のたゆらともゆらの兄弟愛を見て、やっと「いいところもあるんだな」と思えました。

勾陣と紅蓮の、丁々発止のやりとりは、見ものでした。
紅蓮相手にやりあえるのは、勾陣姐さんしかいませんものね。

口では負けない勾陣と、力技に出る紅蓮。
久々に、たぬきのとぼけっぷりを発揮する、晴明。
道反の聖域での会話は、久々に楽しいものでした。

楽しいといえば、成親と雑鬼とのやりとりも微笑ましかったです。
藤原敏次であれば、即、物忌みですね。

彰子のことといい、比古のことといい、気になることが目白押しです。

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