カテゴリー「おすすめ本【や行】」の記事

2009.11.01

『床屋さんへちょっと』 山本幸久

浜名美容室を軸に展開する、宍倉一家の物語。

特に巻頭の「桜」が、よかったです。
お調子者っぽいけれど、おじいちゃんを大切にする孫が愛らしく、じんわりとあたたかかったです。

勲はなぜ、その場所に三十年以上も行かなかったのか。
だんだんと過去が明かされていきます。

二代目として会社を継ぎながら、潰してしまった後悔。
娘にまつわる、さまざまな出来事。

時間を遡りながら、紡がれていく家族の思い出たち。
寡黙な勲だけれど、その人柄や生き様が、浮かび上がっていきます。

衝突したり、大変なこともあったけれど、やはり繋がっている家族のあたたかさ。

時が経つのではなく、遡っていく連作短編に珍しさを感じていましたが、最後に現代に戻り、ぐっと引き締まりました。

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 【既読の山本幸久作品】
『凸凹デイズ』

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2009.08.07

『Story Seller』 伊坂幸太郎/近藤史恵/有川浩/佐藤友哉/本多孝好/道尾秀介/米澤穂信

執筆陣の豪華さに惹かれ、手にしました。

それなりの長さがあるので、キラリと閃くような短編とは違い、ストーリー性を持った物語ばかり。
「面白いお話、売ります」のコピーに相応しいです。

元々のファンはもちろん、初めて触れた作家から各々の作品へと広がっていくにも、うってつけの一冊です。

伊坂幸太郎「首折り男の周辺」。
仙台が多い中、舞台は珍しく東京です。
首を折って殺す、という残酷さをさらりと描き、強者と弱者が入り混じる辺り、らしさが出ていました。

近藤史恵「プロトンの中の孤独」。
中編という制約の中、自転車ロードレースの世界をよく描けています。
読後感が爽やかです。

有川浩「ストーリー・セラー」。
自衛隊こそ登場しないものの、甘くて、ちょっとSFで、ほろりとする恋愛モノは、らしさ全開でした。

米澤穂信「玉野五十鈴の誉れ」。
昭和の香りと、背筋が寒くなるような展開。
この人が書いていたのか、とちょっと驚きました。

佐藤友哉「333のてっぺん」。
東京タワーの上で起きた、殺人事件にまつわる話。
後ろ暗い主人公に、怪しくて変な男。
でも絶妙にバランスが取れている、不思議な物語でした。

道尾秀介「光の箱」。
クリスマスの音楽を聴きながら読みたいところです。

本多孝好「ここじゃない場所」。
異能者の仄めかし方が絶妙で、彼らが主役の本を読んでみたくなりました。

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【2009.11.6 追記】
伊坂幸太郎『あるキング』読了しました。

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2009.06.16

『秘密。 私と私のあいだの十二話』 吉田修一/佐藤正午/有栖川有栖/小川洋子/篠田節子/唯川恵/北村薫/伊坂幸太郎/三浦しをん/森絵都/堀江敏幸/阿部和重

彼と彼女だったり、店員とお客さんだったり、偶然隣り合わせた二人だったり。
一つのストーリーについて、A面とB面というように、二人の視点を順に描いた短編集。

日本テレコムSHORT THEATER「心をつなぐ言葉たち」と『ダ・ヴィンチ』に掲載された作品をまとめたもので、12人の作家が執筆。

執筆陣で知らなかったのは、森絵都、堀江敏幸、阿部和重。

他は、吉田修一、佐藤正午、有栖川有栖、小川洋子、篠田節子、唯川恵、北村薫、伊坂幸太郎、三浦しをんと、なかなか豪華です。

一冊で、いろんな作家の作風、アイディアに触れられるのが、面白かったです。
三浦しをんはエッセイばかり読んでいましたが、ユーモアのある小説も面白いものだと思いました。

A面で気になっていたこと、仄めかされていたことが、B面で明らかになる面白さ。
一つ一つはとても短い話なのですが、2つの側面に分けることで、メリハリがついています。

ほんのりと心温まる展開が多く、読後感もよかったです。

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2009.06.05

『クドリャフカの順番 「十文字」事件』 米澤穂信

『氷菓』『愚者のエンドロール』に続く、古典部シリーズ第3弾。

学校一眼となって盛り上がる、有名な文化祭前日。
古典部には、一つの問題が起こっていました。

文化祭で販売する文集「氷菓」が、手違いで7倍も手配されてしまったのです!
売れ残れば、大幅な赤字と、余った文集の処分が待っています。

完売めざし、それぞれが3日間、奔走するのですが・・・というお話。

最初は、文化祭の描写がダラダラ続く感じで、正直「今回はハズレかな」と思ってました。
4人の視点が入り乱れるのも、読んでいて疲れましたし。

それが「十文字」の連続事件がおき、わらしべ長者が始まったあたりから、面白くなってきました。

それぞれの視点が、読者にしかわからない形で、意味を持ち始める。
時には単独で、時には交錯しながら、展開していくストーリー。
視点人物が変わることで、それぞれのキャラクターの個性もよく出ていました。

衆人環視で、犯人はどうやって犯行に及ぶのか?

わらしべ長者の小ネタが面白かったです。
次は何に変わり、どうやって行かされていくのか。
謎解きの本筋とは関係がないんだけれど、笑えました。

今回は、ご都合主義な出来事が多々あります。
純粋な謎解きミステリというより、ユーモアミステリ、半ば番外編的な、キャラを楽しむネタとして読むべきかも。

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2009.03.03

『ジョーカー・ゲーム』 柳広司

『このミステリーがすごい!2009年版』国内第2位。
評判に違わぬ面白さで、一気に読んでしまいました。

帝国陸軍に設立された、スパイ養成所"D機関"。
伝説の元スパイ、結城中佐が鍛え上げた、精鋭揃いの部署です。

"魔王"こと結城中佐と、D機関のメンバーが活躍する、5つの物語。

どの話もテンポよく、面白くさくさく読めました。

スパイ物というと、裏切りや制裁がつきもの。
表紙も一見怖そうですし、過酷で凄惨なストーリーかと思っていました。

実際には、惨たらしい場面はなく、むしろ洗練されたクールな世界、といえるものでした。

二転三転する状況。
些細な手がかりからの推理と、状況の打破。
常に危険にさらされているスパイたちの、手に汗握る物語です。

そのくせ全てが、結城中佐の手のひらの上で転がっているような展開が、シャーロック・ホームズ物のようでした。

過酷なスパイの任務を知り尽くした、結城中佐のブラックなカリスマ性が、また魅力です。
彼のスパイ論は揺るぎないもので、そのくせ冷徹なだけではない・・・。

章ごとに登場人物も変わるのですが、どれもきっちり個性が出ていて、面白いです。

もっと続きが読んでみたくなる、魅力的な一冊でした。

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2009.01.26

『ラクリッツ探偵団―イエロー・ドラゴンのなぞ』 ユリアン プレス

少年少女と刑事で結成する「ラクリッツ探偵団」。
彼らは些細な手がかりも見逃さず、事件を解決に導いていくのだ!

左のページに本文と問題が、右のページにイラストがあり、イラストの中から手がかりや犯人を見つける、というクイズ小説。
子供向けの謎解き本なのですが、これが面白いんです。

簡単に見つかるものから、ちょっと考えてしまうものまで、楽しい謎解きがいっぱいです。
基本的に、絵から探し出すものなので、幼い子供でも楽しめます。

幼稚園と小学1年生の娘には、やや本文が難しいようで、私が読み上げながら、みんなで解きました。

親子で楽しめる、とても楽しい本でした。
シリーズ化して、ぜひ他にも作品を出して欲しいです。

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2009.01.16

『彩雲国物語 黒蝶は檻にとらわれる』 雪乃紗衣

『彩雲国物語 はじまりの風は紅く』から始まる、シリーズ第14弾。

シリーズものだと言うのに、この前の巻『黎明に琥珀はきらめく』を読み忘れて、本書に突入。
途中で気がついたのですが、そのまま読みすすめてしまいました。

自分のミスが原因ではありますが、最初は状況が繋がらず、入り込みづらかったです。

秀麗をあの手この手で褒めちぎりすぎだなぁ、とか。
美男揃いで、しかも皆、秀麗にほれ込みすぎ、とか。

多少つっこみたくもなりますが、これはこれでお約束の展開なのかなと。

1巻飛ばしたこともあり、ビックリするような危機的状況。
さらに驚愕の事実発覚。

王都での政治の駆け引きが中心となり、後半のストーリーのテンポのよさは、久々かもしれません。
楽しく読みすすめました。

特に、王劉輝と秀麗の決断は、意外でした。
今後の展開がどうなるのか、気になります。

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2009.01.05

『麦酒アンタッチャブル』 山之口洋

映画「アンタッチャブル」になりきっている根津(ネス)が巻き起こす、軽快で楽しいどたばたコメディ。
映画を知らずに読んでいても楽しめましたが、映画を観ている方が、さらに面白いと思います。

根津の描写を読んでいて、頭をよぎったのは、どきどきキャンプの「24ショートコント」。
演じている人物は違うものの、映画の人物、しかも海外の作品になりきっていることで、現実の日本から浮いてしまっているおかしさが、共通している気がしました。

酒税を払わず、非合法のビールを自家醸造するホームブリュワー。
その非合法の醸造に、異様な取り締まり意欲を持っている、財務省酒税課の根津。

思い込みの激しい根津が牽引者となって、物語はハチャメチャな展開をしていきます。
テンポがよくて、登場人物たちの弾けっぷりも面白くて、楽しい作品でした。

自家製ビールの酒税をめぐった作品なので、主人公の魚崎(ウォレス)も、ビール作りに手を染めます。

ビールの造り方や、日本のビール業界の特徴を、楽しみながら知ることが出来たのも、良かったです。
財務省の酒税課と、国税庁の酒税課の違いなども、初めて知りました。

ビール好きの方には、特にお勧めです。
自家製ビールが作りたくなってしまうかもw

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2008.11.04

『沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ一』 夢枕獏

遣唐使として入唐した、橘逸勢と空海。
二人は、ただならぬ存在が起こしている、奇妙な事件と係わりあうようになり・・・というお話。

並外れた能力と知識を持ち、ミステリアスな雰囲気を保っている、空海。
時に素直すぎるほど真っ直ぐに問い、いい漢に描かれている、逸勢。

このコンビは、まるで『陰陽師』の安倍晴明と源博雅のコンビではないか、と思いました。

宇宙や、曼荼羅、善と悪。
ややこしく、難しいことを言い、聞いている側は、分かったような分からないような、騙されたような気持ちになる。
それでいて、逸勢は怒るでもなく、空海の知識に、素直に驚嘆する。

この二人の会話も、熟考の末、空海についていく逸勢のポジションも、まさにそのままという気がします。

倭の国では、己が天才だと自負していた逸勢は、源博雅に比べると、ちょっと奢ったところがあります。
密を盗もうという空海も、達観した安倍晴明に比べると、少し世俗的な感じはします。

倭国だけでなく、唐に関連する諸外国のこと。
仏教だけでなく、他の宗教のこと。
さまざまなことを盛り込んでいるので、厚みのある本の割には、話が進みません。

妖しい猫に妻を取られた、劉雲樵。
背後に何かが潜んでいそうな、麗香姐さん。
謎めいた使命を持つ、大猴。

やっと役者が揃って、スタートラインに立った、という感じです。
長い巻を読みきって、特に何事も解決しませんでした。

面白そうなので、読みすすめようとは思いますが、1つの巻でもある程度の区切り、起承転結が欲しかったです。

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2008.10.31

『影踏み』 横山秀夫

リアリティに溢れる他の作品とは、雰囲気が異なりますが、一つの読み物として面白かったです。

刑務所から出た、真壁修一の頭蓋に響いたのは、「修兄ィ」の声。
死んだ双子の弟、啓二の意識が、頭の中に住み着いているのでした。

修一は、自分が逮捕されるきっかけとなった事件のことを、再び調べなおし・・・というお話。

死んだ弟の声が、内耳に響く。
最初は、このSF的な設定が、リアリティの横山秀夫っぽくないな、と感じました。

物語り全体としても、他の横山秀夫作品とは、少し違った印象があります。
リアリティの追求ではなく、どちらかというと現実離れした方向性の、ハードボイルド世界だからでしょうか。

同業者のツテや、対立する警察官。
修一を中心とする人間関係の中で、事件は起きていきます。

一話完結で、さくっと解決するものの、関係者ばかりが犯人であるという、やるせない感じが続いていきます。

そもそも啓二がなぜ、亡くなったのか。
修一はなぜ、深夜の民家に入って現金を盗む「ノビ」にならなければならなかったのか。
そして今もなお、久子を泣かせ続けなければならないのか。

修一と啓二の関係からして、簡単には答えられない問題が山積です。

横山秀夫に期待する、重厚なリアルさ、というのとは違っていましたが、読み物として面白かったです。
単に「すり」「空き巣」などと一くくりにせず、手口による違いを、詳細に描き分けているところは、横山秀夫らしいですね。

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