カテゴリー「おすすめ本【さ行】」の記事

2009.11.09

『刑事一代 平塚八兵衛の昭和事件史』 佐々木嘉信

史実を基にしたドラマでも、小説でもない。
実際に、当時捜査していた刑事が語る、ノンフィクションの圧倒的な力に、読み応え十分でした。

吉展ちゃん事件、帝銀事件、小平事件、スチュワーデス事件、下山事件、カクタホテル殺人事件、三億円事件。
有名な事件を数々手がけてきた名刑事、平塚八兵衛の聞き書きです。

「聞き書き」という形式で、本人の言葉そのままに伝えたのは、正解だったと思います。
ご本人の信念や、人柄といったものが、よく伝わってきました。

他人の調べを鵜呑みにせず、自ら全ての証拠を洗い直し、矛盾を洗い出す。
上司に啖呵をきったこともあるし、周囲と不協和音が響いたこともあるそうです。

上意下達の警察組織では、考えられないことですが、それだけの信念を持っていたからこそ、できた偉業でもあります。
まさに職人刑事。

信念は思い込みと紙一重であり、この方の見解が必ずしも正しかったわけではなかろう、という印象も受けました。
よい方に動いたのが「吉展ちゃん事件」であり「帝銀事件」であったのだろうと。

捜査の内幕が、これだけ詳細に語られているのも驚きです。
今は守秘義務云々で、退職後とはいえ、これほど明かすことはできないのではないでしょうか。

またご本人の弁の間に、必要に応じて括弧書きで、ほかの関係者の証言を挟んでいるのも、適切でした。

ただし「三億円事件」に関してだけは、この括弧書きがマイナスでした。
全く関係ない、当時の時事ネタを挟み込んでおり、話の腰を折っていて邪魔でしかなかったです。

この事件に他の証言がなく、書くことがないなら、本人の弁だけでよし。

下山事件に関しては、松本清張が『日本の黒い霧』で取り上げているそう。
松本清張に捜査のあらましを聞かせたのが、この方だったというから驚きです。

吉展ちゃん事件に関しては、本田靖春『誘拐』が詳しいです。
こちらを先に読んでいたので、より「吉展ちゃん事件」の章がよく分かりました。

先だってドラマ化もされていましたが、見逃してしまったのが残念です。

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2009.10.15

『少しだけ欠けた月-季節風 秋』 重松清

季節風シリーズの一冊。
うっかり順番を間違えてしまい、最後に秋が来てしまいました。
他の3作は、『ツバメ記念日-季節風 春』『ぼくたちのミシシッピ・リバー―季節風 夏』『サンタ・エクスプレス―季節風 冬』

台風、運動会、銀杏、金木犀。
今まさに感じている"秋"のモチーフが詰まっていました。
このシリーズは、それぞれの季節に読むのが一番ですね。

田舎の両親は心配だけれど、東京の狭い我が家で同居となると、悩んでしまう、とか。
特別出世もしていないけれど、日々頑張っているサラリーマンとか。

普通の、等身大の家族が描かれています。

「サンマの煙」は、母が娘を思うあたたかさがよかったです。

「キンモクセイ」は、離れていてもある家族の絆に、じーんとしました。

「ウイニングボール」は、前向きで爽やかな読後感。

「田中さんの休日」は、生真面目な田中さんと、仲良し母子の、ちぐはぐなようで、ちゃんと繋がっているところが微笑ましいです。

ただ、シリーズの他作品に比べると、やや泣ける度合いが低かったです。

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【2009.11.2 追記】
『ブルーベリー』読了しました。

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2009.10.06

『サンタ・エクスプレス―季節風 冬』 重松清

『ツバメ記念日-季節風 春』『ぼくたちのミシシッピ・リバー―季節風 夏』などの、季節風シリーズ第4弾。
うっかり秋を飛ばしてしまいました。

最初は、切なく、悲しかったりする気持ちが多く、筆者お得意の最後の「あったかさ」が弱い気がしました。
寒く凍える冬が舞台だからなのか、と思ったり。

そのうち期待通りの物語が登場。
特別ではなく普通の、人々のあったかさを感じられました。

中でも気に入った作品をいくつか。

「サンタ・エクスプレス」は、帰り道の新幹線だけというところに、闇雲に甘えるだけじゃない、女の子の芯の強さを感じました。

「ネコはコタツで」は、ちょうど似たような状況があるだけに、読む気持ちが違いました。
遠く離れて住んでいたら、かなり悩むだろうなと。
人は、何か生きがいがないと、やっぱりきついものです。

「その年の初雪」は、別離がすべての別れではなく、そこに何かの絆を残している。
この人の作品では、いつもそう気づかされます。

「ごまめ」は、普通の家族の、普通のお正月の、あったかさが心地よいです。
気持ちがほっこりしました。

「バレンタイン・デビュー」は、馬鹿馬鹿しいんだけれど、家族のあたたかさを感じて、なごみました。

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【2009.10.15 追記】
『少しだけ欠けた月-季節風 秋』読了しました。

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2009.09.13

『クローズド・ノート』 雫井脩介

携帯読書サイトでの連載に、加筆・訂正したもの。
冒頭から惹きこまれていく、素敵な恋愛小説でした。

大学でマンドリンクラブに所属する香恵は、部屋の片隅に残されていたノートを見つけます。
前の住人が忘れていったと思われるノートを、ふとしたきっかけで開いてしまい・・・というお話。

本人の日記と、生徒や保護者からの手紙のみで浮かび上がる、伊吹先生。
真っ直ぐで、あたたかで、一生懸命で・・・。
その姿かたちが、誰かから語られるわけではないのに、そこには確かに、先生の姿がありました。

伊吹先生の文章には、モデルがあったとのこと。
こんな素敵な先生に教わることができたという、子供たちが羨ましいです。

メールやワープロソフトを使っているので、すっかり手書きすることがなくなった今。
出番がなくなってしまっていますが、私も万年筆が好きで、子供の頃から使っていました。

今井文具店で扱うような高価なものではありませんが、愛着を持っていましたので、石飛と香恵のやりとりに、心惹かれました。
今井文具店で、自分にぴったりの万年筆を手に入れられたら・・・と夢想してしまいます。

天然といわれる香恵の、それでいてちゃんと芯を持ったあり方も、清々しかったです。

読んでいればラストは予想がつくのに、予想通りに着地した終わり方が、とても心地よいのです。
どんでん返しなどは要らない。
その真っ直ぐなストーリーが、じんわりとあたたかい気持ちにさせてくれました。

『犯人に告ぐ』『火の粉』とは、全然違った作風で、びっくりでした。

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2009.09.09

『おばさん未満』 酒井順子

40代になった筆者が綴る、エッセイ。

若くもなく、かといっておばあさんでもない。
また年を重ねたからといって、「おばさん」になってしまうのを良しとしない、世代でもある。

幾つになってもおしゃれでいたくて、でも若作りになってしまうと「痛い」ので・・・。
と悩ましい胸の内を、独特の口調で語っています。

自分の世代、上の世代、そして下の世代について、鮮やかな分析をしています。
この観察力が、この人の文章の魅力です。

筆者の方が上の世代なので、いつも一歩先の話題を提供してくれます。
今は共感できるわけではないけれど、きっと分かる時が来るのだろうな、と思いつつ読みました。

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2009.08.27

『フェルマーの最終定理』 サイモン・シン

長年、数学界で証明できなかった、フェルマーの最終定理(証明される前は、定理ではなく予想)。
20世紀、遂にそれを証明したアンドリュー・ワイルズを芯におきながら、フェルマーの最終定理に秘められたドラマを紐解いた本。

「ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで」の副題どおり、数論の始まりから、ワイルズによる証明までの数学の歴史と、紆余曲折を取り上げています。

きっと読んでも分からない、論文そのものは載せず、それでいて数学の本質や、問題の難しさを理解させてくれる。
数学の素人でも分かる、とても噛み砕かれた本で、感銘と驚きに満ちています。

完全数、友愛数、素数といった話も出てくるので、『博士の愛した数式』が好きな方にもお勧めです。

ワイルズの証明に必要不可欠だった存在として、谷山=志村予想があります。
その名の通り、二人の日本人が打ち立てた予想です。

ただその予想に触れるだけに留まらず、お二人についてもしっかり描かれています。
この有名な問題に、日本人が深く係わっていたというのは、日本人として嬉しい事実でした。

ワイルズの為し得たことはもちろん偉業であるけれど、それ以外にもたくさんの「一歩」があり、その上に今がある。
その点を公平に描いている点も、好感が持てました。

それにしても、証明を公式に発表してからの紆余曲折は、ノンフィクションとは思えないほど、ドラマティック!
プレッシャーも凄まじかったでしょうに、それを乗り越えたワイルズは、やはり並の人ではなかったのでしょう。

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2009.08.24

『ぼくたちのミシシッピ・リバー―季節風 夏』 重松清

『ツバメ記念日-季節風 春』に続く、シリーズ二作目。

今回は「夏」ということで、雨の梅雨から、暑い夏休みまでの短編が12話。
ちょうど今の季節にぴったり来る一冊でした。

引っ越し、決別、そして避けられない別れ。
別れがあれば、夏休みならではの思いがけない再会があり、揺れ動く気持ち。

その揺らぎを、丁寧にすくい上げていて、どのお話でも泣けました。

どの話も、スーパーマンな人はいなくて。
誰もが普通に暮らしている、普通の一人。

そんな身近なエピソードだからこそ、より共感し、あたたかい涙を流しました。

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【2009.10.6 追記】
『サンタ・エクスプレス―季節風 冬』読了しました。

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2009.08.16

『サマータイム』 佐藤多佳子

夏の日。
どしゃ降りのプールで出会った少年は、父親と左手を失っていた・・・。

『一瞬の風になれ 第1部 イチニツイテ』『しゃべれどもしゃべれども』などの筆者の、デビュー作です。

進視点の表題作は、それ一つで完結なのかと思いきや、他の二人の目線で、話が続いていったのには、驚きました。
同じ話を別目線で繰り返すと、冗長になりがちでは、と思ったのです。

しかし読んでいると、それぞれ時間がずれていて、他の話を補完しつつも、新しいエピソードになっていました。

それぞれが抱くバックグラウンドが分かり、深みが増しました。

一番の年少だけれど、意外と頑固な、進。
美人で、でも我が儘な、姉の佳奈。
そして、大人びた態度をとる、片腕の広一。

三人が織り成す、成長物語です。

ピアノやゼリーを描く描写が、とても綺麗でした。

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2009.08.07

『Story Seller』 伊坂幸太郎/近藤史恵/有川浩/佐藤友哉/本多孝好/道尾秀介/米澤穂信

執筆陣の豪華さに惹かれ、手にしました。

それなりの長さがあるので、キラリと閃くような短編とは違い、ストーリー性を持った物語ばかり。
「面白いお話、売ります」のコピーに相応しいです。

元々のファンはもちろん、初めて触れた作家から各々の作品へと広がっていくにも、うってつけの一冊です。

伊坂幸太郎「首折り男の周辺」。
仙台が多い中、舞台は珍しく東京です。
首を折って殺す、という残酷さをさらりと描き、強者と弱者が入り混じる辺り、らしさが出ていました。

近藤史恵「プロトンの中の孤独」。
中編という制約の中、自転車ロードレースの世界をよく描けています。
読後感が爽やかです。

有川浩「ストーリー・セラー」。
自衛隊こそ登場しないものの、甘くて、ちょっとSFで、ほろりとする恋愛モノは、らしさ全開でした。

米澤穂信「玉野五十鈴の誉れ」。
昭和の香りと、背筋が寒くなるような展開。
この人が書いていたのか、とちょっと驚きました。

佐藤友哉「333のてっぺん」。
東京タワーの上で起きた、殺人事件にまつわる話。
後ろ暗い主人公に、怪しくて変な男。
でも絶妙にバランスが取れている、不思議な物語でした。

道尾秀介「光の箱」。
クリスマスの音楽を聴きながら読みたいところです。

本多孝好「ここじゃない場所」。
異能者の仄めかし方が絶妙で、彼らが主役の本を読んでみたくなりました。

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【2009.11.6 追記】
伊坂幸太郎『あるキング』読了しました。

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2009.07.31

『とんび』 重松清

何度涙を零したか分からないくらい、泣けて泣けて。
心温まる涙でした。

原爆で家族を失くした美佐子と、伯父夫婦の養子として育てられたヤス。
両親のいない二人が「家族」を作り、アキラという命を授かります。

ところが悲劇が襲い、ヤスは男手一つで、アキラを育てていくことになり・・・というお話。

皆が事情を通じ合い、そして支えあっていく。
田舎ならではの、人のあたたかさに溢れた物語でした。

時代設定も、人情のあった昭和の時代で、幼馴染みの照雲一家も、たえ子も、ほとんど身内のよう。
ヤスとアキラの親子の物語なんだけれど、照雲たちも含めて、大きな家族の物語のようでした。

親になるとは、一人の人間を育てるというのは、いつの時代にも難しい。
親の子供であり、そして子を持つ親でもあるので、アキラにもヤスの気持ちにも、重ねるものがありました。

照れ屋のヤスの、ひねくれた愛情表現には、ハラハラしたり笑ったりでした。

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2009.07.22

『東京バンドワゴン シー・ラブズ・ユー』 小路幸也

『東京バンドワゴン』に続く、シリーズ第2弾。
古本屋<東京バンドワゴン>を舞台に繰り広げられる、人情物語です。

現在ではなかなかない、下町の人と人との繋がり。
皆が顔見知りで、お互いを支えあって生きている。

そんなあたたかさと、ほろりとするシーンの詰まったストーリーです。

幽霊のサチが、単なる観察者になってしまった感じがします。
前作のように、手助けしたくても出来ないような、主体的な係わり方がなくなってしまいました。

藍子の恋の行方とか。
新しい家族のこととか。

堀田家の家族物語の側面が、強くなってきました。

前作でも感じたけれど、登場人物が多く、血縁関係が複雑なのが、ちょっと読みにくいです。

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2009.07.12

『都と京』 酒井順子

言語、京女、食べ物、観光、文学、京大、祭り、交通、敬語、礼儀作法。

(みやこ)である、東京。
(みやこ)である、京都。
さまざまなテーマで、ふたつの都市を比較しながら、京都を分析したエッセイ。

着眼点が面白く、また辛口なところが、心地よいのです。
一眼レフカメラを片手に、京都を旅したくなりました。

京都にハマる自分自身を、京都人はどう思っているか、冷静に分析できる。
ついつい京都通ぶって語ってしまいがちなところで、なかなか常人に出来ることではないと思います。

同業者町をめぐるコラムなど、普通のガイドブックにはない視点です。

特に興味深かったのが、京都生まれ、京都育ちで、地元ならではの京都を描いた小説がない、という話。

山村美紗の描く京都は、あくまで「ソト」の人間が喜ぶ京都。
芸者だとか、家元だとかが絡み、分かりやすい観光地を描いているといいます。

個人的には、森見登美彦が「ソト」向きとは少し違う京都を描いていると思うのですが・・・。
奈良出身なので、生粋京都人の条件には当てはまりませんね。

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2009.06.16

『秘密。 私と私のあいだの十二話』 吉田修一/佐藤正午/有栖川有栖/小川洋子/篠田節子/唯川恵/北村薫/伊坂幸太郎/三浦しをん/森絵都/堀江敏幸/阿部和重

彼と彼女だったり、店員とお客さんだったり、偶然隣り合わせた二人だったり。
一つのストーリーについて、A面とB面というように、二人の視点を順に描いた短編集。

日本テレコムSHORT THEATER「心をつなぐ言葉たち」と『ダ・ヴィンチ』に掲載された作品をまとめたもので、12人の作家が執筆。

執筆陣で知らなかったのは、森絵都、堀江敏幸、阿部和重。

他は、吉田修一、佐藤正午、有栖川有栖、小川洋子、篠田節子、唯川恵、北村薫、伊坂幸太郎、三浦しをんと、なかなか豪華です。

一冊で、いろんな作家の作風、アイディアに触れられるのが、面白かったです。
三浦しをんはエッセイばかり読んでいましたが、ユーモアのある小説も面白いものだと思いました。

A面で気になっていたこと、仄めかされていたことが、B面で明らかになる面白さ。
一つ一つはとても短い話なのですが、2つの側面に分けることで、メリハリがついています。

ほんのりと心温まる展開が多く、読後感もよかったです。

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2009.06.02

『伊坂幸太郎×斉藤和義 絆のはなし』 伊坂幸太郎/斉藤和義

作家・伊坂幸太郎と、ミュージシャン・斉藤和義の対談集。
二人の写真、詳細年表、影響を受けた映画・音楽・小説・漫画、製作現場の潜入レポも。

対談は基本的に断っているという伊坂幸太郎の、貴重な写真&トークです。
貴重な奥様との馴れ初めや、恋愛話も!

斉藤和義についてはあまり知らなくて、伊坂幸太郎目当てで手にした本。
ところがタイムリーなことに、斉藤和義のテレビ出演を見たり、「あの曲の人か!」と思うCMソングが多々あったりでした。

元々、伊坂幸太郎が斉藤和義の大ファンで、小説と音楽のコラボを行ったのがきっかけで、この本が生まれたのだとか。
対談を読んでいくうちに、好みの共通性が浮かび上がってきて、彼(の音楽性)のファンだというのに納得しました。

どんな風にして作品を作っているのかがわかって、興味深かったのが、以下のコーナー。
どんなところで創作しているかの「現場潜入レポ」。
どんなアイテムを使っているのかの「職人の小道具」。
このアイディア帳とパソコンから、小説が生み出されるんだ! と。

『ラッシュライフ』で、一躍評論家たちの注目を集めるようになったのだとか。
私自身も、一番好きな作品なので、納得でした。

対談集の脚注が、今ひとつだったのが、残念。
作品紹介になっていて営業的というか、そこから更に何か知りたくなるようなものではありませんでした。

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2009.05.29

『青い鳥』 重松清

吃音の村内先生は、あちこちの学校へと臨時でやってくる。
側に寄り添う人が必要な、一人ぼっちの子供たちのために。
大切なことを、伝えるために。

いじめが発覚すると、必ずオトナたちがいう、「友情」だの「団結」だのという、白々しさ。
中学生という微妙な年頃の、子供たちのオトナへの反発心が、よく描かれています。

そんな子供たちの尖った心、淋しい心に、そっとよりそう村内先生。
どの話もじんと暖まる、筆者のらしさが現れている世界です。

ただ一つだけいうと、どの話も、いじめや自殺が絡んでいたので、ちょっぴりきつかったです。
一冊の中で一つ二つならいいのですが、全部が全部そうだと、かなりずっしりと、重かったです。

すごくいい本だけれど、重たさもあるので、受け止める心の余裕があるときにどうぞ。

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2009.05.26

『警官の紋章』 佐々木譲

『うたう警官』『警察庁から来た男』の続編。
佐伯たちが活躍する、シリーズ第3弾。

お馴染みのメンバーが、それぞれの任務につきながら活躍していくのが、楽しい作品でした。

洞爺湖サミットに備え、厳戒態勢の北海道。
なんと勤務中の警官が、拳銃を所持したまま、失踪したという。

津久井は、その失踪した日比野特捜チームへ。

小島百合は、サミット警備の結団式にやってくる、大臣のSPに。

そして佐伯は、一度は決着したはずの、覚醒剤密輸入おとり捜査を追い始め・・・というお話。

北海道警察は、膿を出し切ったのか?
腐った上層部は、一掃されたのか?

今回も変わらぬ筆致で、突き詰めていき、最後までぐいぐいと引っ張っていってくれます。

救いのある最後で、よかったといえばよかったけれど、逆を言えばいいところで終わらせて、その後の真の試練は描かれなかったということ。

佐伯が押さえた証拠だけで、本当に公判を迎えられるのか。
今回の膿も白日の下にさらせなければ、本当のハッピーエンドとは言えないのではないか、と思いました。

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2009.04.30

『ツバメ記念日-季節風 春』 重松清

分かれの季節であり、新しい生活の始まりでもある、春。
そんな春を舞台にした、じんわり泣ける、心温まる物語の詰まった短編集。

赤ん坊を抱えての、共働き夫婦。
開発によって消えていく、田舎の交通手段と、都会へ旅立っていく少年たち。
姑の善意と、嫁の葛藤。

そこに描かれる設定は、決して特別なものではありません。
日本のどこかにある、ありふれたエピソードです。

それでもそこに生きる人々は、精一杯、悩んで、考えて、生きている。
ありふれているからこそ、身近で、一緒にじーんときてしまう。

嫌な人かと思っていたら、実は思い違いだったりして、人ってあったかい。
そんな物語ばかりでした。

気づかずに手にしたのですが、副題の通り、春の物語ばかり。
今の季節にぴったりの一冊でした。

ただし「霧を往け」だけが、不満の作品。

ただ主人公が、自分のためだけにつく、自己満足の嘘は、遺族の気持ちを踏みにじるもの。
身勝手な行いで、読んでいて憤りを感じました。

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【2009.08.24 追記】
『ぼくたちのミシシッピ・リバー―季節風 夏』読了しました。

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2009.04.14

『むかつく二人』 三谷幸喜 清水ミチコ

ラジオ番組の単行本化。
にやり、くすりと笑ってしまう、トークが満載。
「むかつく」ことはなく、読後感のよい本です。

『いらつく二人』を先に読んでしまいましたが、こちらが最初の一冊。
番組開始からのトークを、まとめてあります。

番組初回って、意外と聞いたことがないもの。
最初のトークの、ぎこちなさとか、徐々に歯車のあっていく感じがよく出ています。

お二人はプライベートでも仲がいいようで(東スポでスクープされているくらい)、ずけずけと言っていても、信頼しあっているからこそのあたたかさがあります。

クイズ番組の話題。
我が家もクイズ番組好きでよく見ているので、面白かったです。
今はまたクイズ番組が増えてきているので、三谷さんも出演オファーがくるのでは、と思ったり。

最後は、「古畑任三郎」2006年正月の三夜連続スペシャルの話題。
楽しく見た番組だったので、裏話を読めたのが嬉しかったです。

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2009.04.05

『いらつく二人』 三谷幸喜 清水ミチコ

「イラつく」なんてタイトルについていますが、中身はとっても楽しいトーク本。
どくとくのまったり感と、ユーモアのあるやり取り。
最初はくすくす、最後の方は思いっきり笑ってしまいました。

ラジオ番組トークを、単行本化したものです。

全然性格の違う二人だし、トークでもいろいろ言い合っているんですけれど、それが全然不快じゃない。
仲がいいからこそ言い合える会話で、とても心地のよいやりとりでした。

途中「○○風に」と物まねしているシーンなどは、「実際の声が聞きたいっ」と思いました。

舞台「12人の優しい日本人」の話題が出ています。
映画版を観て、とっても面白かったので、舞台も見てみたかったです。

ドラマ「古畑任三郎」はミステリかサスペンスか、というテーマも興味深い話。

水野晴郎は「Whot done it」のみをミステリとしているのですね。
犯人が分かっていても、どこにミスがあったのかとか、動機は何であったか、を謎解きするからミステリである、という三谷幸喜の意見に、私も同感でした。

各回の終わりについている「ついでの話」というのが、またよくできていました。
「へ~」と思う情報あり、くすりと笑ってしまうオチあり。

お二人ではなく、別の誰かがまとめているコーナーだとは思うのですが、話の流れと雰囲気にとてもよく合っていました。

現在もJ-WAVEで放送されているのでしょうか。
独特のやりとりを、実際に聞いてみたくなりました。

この本はのんびり前進じたばた生活さまの

年も1歳違いだということもあってか、清水さんが突っ込むべきところを ちゃんと突っ込んでくれているので、とても軽快な二人のやりとりを楽しめました。

というレビューがきっかけで読みました。

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【2009.4.14 追記】
『むかつく二人』読了しました。

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2009.02.23

『黄金の王 白銀の王』 沢村凛

国を統べることの難しさを考えさせられる、良書。
最後は泣けるファンタジーでした。

鳳穐(ほうしゅう)一族と旺廈(おうか)一族が、王座を争いあってきた翠。
片方の御世が、3代続いたことは無く、騒乱と奪還の歴史の繰り返しでした。

現政権、鳳穐(ほうしゅう)の頭領(ひづち)は、争いの歴史にピリオドを打つことを決意するのですが・・・というお話。

一族の頭領が和解すれば、めでたしめでたし、なんて物語的なハッピーエンドは、現実にはありません。
停戦決議など、何度も破られている現代を見ても、分かります。

歴史は勝者のためにあります。
仇のことを貶め、誹謗中傷した教育を、一族に施し続けます。
骨の髄までしみこんだ反目心は、そう簡単に消えないのです。

忍耐強く策略をめぐらし、ある程度清濁併せ呑む、(ひづち)
真っ直ぐで、王らしい、民衆を惹きつける力を持つ、薫衣(くのえ)

お互いが違う素質を持つ、鳳穐(ほうしゅう)旺廈(おうか)の頭領が、忍耐強く補ってもなお、簡単には解決できないのです。

また王の血を引いていない、他の一族にも思惑があり、それぞれの利己のために動きます。
世界は広く、海を越えて攻めてくる国もあります。

争いをやめることの難しさ、平和な国を手に入れることの難しさを、考えさせられるストーリーでした。

(ひづち)の行いも、平和に欠くべからざるものでしたが、所詮、政権を担う立場。

仇の娘稲積(にえ)との、お互いを気遣いすぎる夫婦愛。
四面楚歌の中で、さまざまな貶めにも耐え、生きる姿。
そしてここぞという時に、王家の資質を見せる薫衣(くのえ)に、どうしても肩入れしてしまい、最後はぼろぼろと泣けました。

素晴らしい本でしたが、ネックだったのは、固有名詞の難解さです。
一人や二人くらいなら、難解な読み方でも覚えていけます。

しかし本書は、端役から主役まで、全てにおいて、一癖も二癖もある漢字。
字に思いを込めているのは分かるのですが、読むにはリズムというものがあり、これだけ難読名詞ばかりだと、リズムが狂わされるのは否めませんでした。

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2009.02.19

『覇王の番人』 真保裕一

真保裕一が時代小説? と思ったけれど、手にしてみると全てが面白い、強力な上下巻でした。
"逆賊"明智光秀の見方が変わる作品。

多くの武将が登場し、しかも同盟を結んだり裏切ったりの激しい戦国時代は、正直苦手です。
この本はじっくりと一人一人、一つ一つの戦を描いているので、読みやすく、世界に入り込めました。
自然に人となりが分かり、世界に入り込ませる文章の上手さは、さすがです。

不勉強なので、どこまでが史実に忠実で、どこからがフィクションかは分かりません。
後記を読むかぎり、筆者なりの下調べと、光秀像を抱いた上で描いているのでしょう。

信長の既成概念にとらわれない大胆さと、強引さ。
家康の忍耐力と、面の皮の厚さ。
秀吉の上昇志向と、自らをひけらかす短慮。

それ以外にも武将、家臣、妻子、忍び、公家、地侍といった人々を、つぶさに描いています。

歴史の教科書では、1行にまとめられる数々の戦も、忍びの活躍、調略と謀反、兵の配置、さまざまな思惑や、人の生き死にがあるのです。

光秀の人となりや、苦渋の決断。
それを支える、小平太や明智の家臣たち。

人の思いが伝わってくる物語でした。

信長の勢い、本能寺の変、そしてその後の展開を、我々は知ってしまっています。
にもかかわらず、ドキドキさせられるのは、細かい駆け引きや、人の思惑を描いているから。

最後まで光秀という人を見てきた身としては、ラストが史実であればいい、と願います。

この本について詳しく見る〈上〉/〈下〉。
ブクログでチェック。

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2009.02.04

『きよしこ』 重松清

吃音の少年が、さまざまなことを経験しながら、大きくなっていく物語。
どの話も心に触れるものがあり、じんとしたり、泣けたりしました。

重松清が、自分自身とよく似た少年を主人公にし、つづった物語、という形式になっています。
エッセイと小説の狭間のような、本人の言葉で説明すると「個人的なお話」。

自分の気持ちを伝えられず、もどかしい思いをすることも。
周りの気持ちが分かってしまって、悲しい思いをすることも。
辛いことも、嬉しいことも、いろいろありながら、少年は成長していきます。

どれも吃音が係わるエピソードではあるけれど、決してそれだけではありません。

父親の仕事の都合で、多くの転校を繰り返す少年は、いろんなクラスメイト、いろんな先生に出会います。

家族の温かさ。
さまざまな形の友情や、悩み。
転校生の葛藤。

吃音というテーマを超え、だれもの胸に響くものがある、ストーリです。
クラスメイトが一つになって、病気の娘を持つ先生を想う「北風ぴゅう太」が、一番泣けました。

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2008.11.27

『天璋院篤姫の生涯―篤姫をめぐる160人の群像』 新人物往来社

大河ドラマ「篤姫」制作を記念して作られたようで、巻頭に特集が組まれています。
チーフプロデューサーのインタビューあり、ドラマの意図や見所、写真入の人物紹介あり。
大河ドラマ「篤姫」から、こういった書籍に興味を持ち始めた人にとって、ぴったりだと思います。

フルカラーを中心とした、写真資料が豊富なのも嬉しいです。
「鹿児島城下絵図屏風」には、今泉家や小松家、大久保や西郷の生家の位置が書き込まれ、その関係がとても分かりやすいですし、ドラマでも重要な位置を占める、「薩州桜島真景図」も納められています。

ただ、篤姫の関係者だけで160人をそろえるのは難しいようで、正確には、幕末と新政府に関わった人々のまとめ、という感じ。
幕府と朝廷だけでなく、諸外国の人物も載っており、幅広く納められています。

それでも160人は大変だったのか、経歴がつまびらかでない上に、役について一ヶ月もせずに没した人物まで、取り上げられていたり、数合わせの感も否めません。

また書き手によって、年表を写しただけのような文章だったり、主観的な文章だったり、質に違いがありました。

そういう粗が多少あるものの、ドラマでは描かれてなかった詳細が分かったり、資料が見られたり、とても勉強になる一冊でした。

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2008.09.05

『最後の大奥 天璋院篤姫と和宮』 鈴木由紀子

大河ドラマ「篤姫」にハマり、関係書物に手を伸ばし始めました。

本書は、幕末を救った二人の御台所を取り上げた本ですが、ただ篤姫と和宮のみを取り上げてはいません。

外様大名である島津家の篤姫が、なぜ将軍家の御台所になり得たのか。

五代将軍綱吉の時代までさかのぼり、近衛家や将軍家・一橋家と婚姻関係を結ぶことで、パイプを広げ、篤姫の輿入れへとつなげていった、島津家の歴史を紐解いています。

島津家が、どのように中央とのコネクションを作っていったのかがよく分かり、大変興味深い本でした。
適宜、家系図が挟まれており、読みやすい文章で理解しやすかったのも良かったです。

例えば斬新な政策を打ち出した、開明的な田沼意次は、文教政策を進めた、似た者の島津重豪と、深い親交を結んだとか。
賄賂政治と叩かれがちな田沼意次の、新たな一面を知りました。

一ツ橋派工作の一翼であったと言われがちな、篤姫の縁談ですが、こちらも新たな説に驚かされました。

輿入れの時には、将軍継嗣問題を使命としていたにしても、婚姻の話が出たのは、そういった問題以前の時期で、しかも将軍家側からの要望であった、というのです。

一緒に語られることが多い、篤姫と和宮。
今回も、篤姫の器の大きさに驚くのと対照的に、和宮は、一回りスケールが小さい、という印象が否めません。

嫌々だったとはいえ、最後は受諾した輿入れ。
関東の風礼をあざ笑うなどして、大奥内に深刻な対立を生み出すなどは、「公武合体」という目的を忘れた、おろかな行為です。

後には改心して、幕府のために尽力したようですが、既に緊迫していた時期の輿入れに対し、覚悟が甘すぎるという気がします。

将軍継嗣問題では対立した、本寿院や、家茂の生母・実成院を、大奥を退出した後も同居させ、面倒を見ていた篤姫には、頭が下がります。

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  【既読の大奥関連書籍】
梅本育子『天璋院敬子』
畑尚子『幕末の大奥-天璋院と薩摩藩』
由良弥生 『大奥をゆるがせた七人の女 天璋院篤姫から絵島まで』
辻ミチ子『女たちの幕末京都』
原口泉 『篤姫 わたくしこと一命にかけ』
宮尾登美子 『篤姫の生涯』
邦光史郎『大奥の謎 秘められた江戸の密室』
浅野妙子『大奥 第一章』
『徳川家に伝わる徳川四百年の内緒話』 徳川宗英(むねふさ)
森村誠一『大奥情炎―人間の剣 江戸編二』
杉本苑子『春日局』
宮尾登美子『東福門院和子の涙』
司馬遼太郎『最後の将軍―徳川慶喜』
有吉佐和子『和宮様御留』
宮尾登美子『天璋院篤姫』
吉屋信子『続 徳川の夫人たち』
松本清張『大奥婦女記』
吉屋信子『徳川の夫人たち』

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2008.05.22

『流星ワゴン』 重松清

じーんときて、泣けるシーンがいっぱいでした。

自らはリストラにあい、息子は家庭内暴力をふるい、妻は離婚したがっている。
もう何もかもがどうでも良くなったカズは、駅前に停められた、謎のオデッセイに気づきます。

車の扉が開き、見知らぬ少年に呼び込まれたカズは、そのまま乗り込んでしまって・・・というお話。

別々の人格である、親と子が分かり合う、難しさとか。
一度ずれた歯車が、どんどんとかみ合わなくなっていく、もどかしさとか。
公開してもやり直せない、過去と向き合うせつなさ。

登場人物たちの心情と、状況の悪化が、細やかに描かれています。
どの問題も身近に感じ、共感して入り込んでいってしまいました。

自分の身に、自分の家族に、こんなことが起きたら、果たして自分はサインを見つけられるんだろうか。
思わず自省してしまいました。

オデッセイの主、橋本さん親子が、どうしてドライブ事故を起こしてしまったのか。
仲むつまじい父子の紆余曲折にも、ジーンときました。

独善的かと思っていたチュウさんの、思いがけない親の愛情にもぐっときました。

どん底の現在へと繋がっていく、ターニングポイントの過去へと戻っていくことは、とてもつらいことです。
直視するのがつらくて、目を背けたくなります。

けれども、橋本親子を中心とした、あたたかさに救われます。
全体としても温かみのある、読後感の良い作品でした。

ただ奥さんの離婚の原因は、ちょっとしっくり来なかったです。
他の原因のように、もっと身近でやるせない理由の方がよかったな、と思います。

この本について詳しく見る
ブクログでチェック。

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2008.05.19

『ブランケット・キャッツ』 重松清

それぞれの目的、さまざまな思いを抱いた借主たちが、レンタル猫を通して、変わっていく、7つの物語。
評判通り、じんわりと心温まる一冊でした。

ブランケット・キャットとは、2泊3日で貸し出される、レンタル猫のこと。
慣れ親しんだ毛布があるからこそ、どこの家でも大人しく暮らすことが出来るのです。

癒されない思い。
抜け出せない思い。
主人公たちはみな、もどかしい思いを抱いていています。

そのささくれた心、傷ついた心が、猫と触れ合うことで変わっていく。
その変化が細やかに描かれていて、一緒にほろりとしてしまいます。

猫好きばかりではなく、猫が嫌いな人が現れたり。
借主だけでなく、猫の視点もあったり。

それぞれ変化をつけていて、飽きずに読むことが出来ました。
後半にかけて、特にじんときました。

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2008.05.02

『図書館の神様』 瀬尾まいこ

ドラマチックな展開はないけれど、独特の雰囲気がある作品。

事情があって、バレーボールから離れ、今までの生活からも離れた、(きよ)
過去から離れ、新たな土地で、教師として働き始めたのですが・・・というお話。

とにかく光っているのが、唯一の文芸部員、垣内君。
清よりも年下ですが、精神面でずっと大きく、懐の広さを感じます。
精神的にたくましいというか、周りに振り回されない、ぶれない芯を持っているというか。

スポーツ至上主義、正義を頑なに振りかざしていた清に、緩やかな変化が現れていきます。
顧問の先生は清なのに、清の成長譚となっています。

文学の話題がごく自然に、さらっと沢山出てくるので、読んでみたいなという気になりました。

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2008.04.12

『天国はまだ遠く』 瀬尾まいこ

全ての貯金を引き出し、見も知らぬ土地の民宿へ泊まり、睡眠薬自殺を決行。
しかし、民宿の兄さんに起こされ、再び目覚めてしまった千鶴。
「死」と向き合った彼女が、感じたこととは・・・。

と、あらすじを説明すると、ものすごくダークで重い話のようですが、実は真逆です。
じんわりと優しく、時にはほのぼのする物語です。

なかなか就職が決まらなかったからといって、安易に不向きな職業飛びついて、ストレスを溜めてみたり。
営業が不向きだと分かっていながら、現状を打破する努力を行っていなかったり。
千鶴の自殺の動機は、はっきりいって甘いとしか言いようがないです。

けれども、仕事も人間関係もうまくいかなくて、ストレスで追い込まれてしまう千鶴の気持ちに、感じるものがないわけではありません。

がんじがらめに縛られて、重苦しくなっていた心が、一つ一つほぐされて、解き放たれていく。
そんなゆったりとした解放の過程が、淡々とつづられていきます。

タクシーの運転手に連れてこられた、木屋谷の集落の、ゆったりした生活。
民宿たむらの、スローライフな暮らし。

なんでもない日常の中で、何かに気づいていく千鶴。

本当に普通の出来事しかないのですが、穏やかに時は過ぎて、一緒に癒される気がします。

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2008.04.10

『東京バンドワゴン』 小路幸也

人情味があって、人々があったかくて、ほろっと泣ける。
読んでいて、とても気持ちのいい本でした。

東京の、とあるお寺の多い地域に、日本家屋の<東京バンドワゴン>はあります。
この一風変わった名前のお店は、祖父・勘一が商う、古本屋です。
古本屋には、孫娘たちが切り盛りする、カフェも併設されています。

この、一風変わったお店と、堀田一家を中心に、繰り広げられる物語です。

語り手は、堀田一家の、亡くなったサチおばあさん(幽霊)。

サチの言葉には、家族を愛しんでいる気持ちがこもっています。
ご近所のことも良く知っていて、懐かしげで、優しい語り口です。

頑固老人の勘一とか。
日本好きの、控えめイギリス人マードックとか。
売れっ子IT企業の若社長でありながら、誠実な人柄の藤島とか。

堀田家はもちろん、ご近所の人々や、関わってくる人々も、みな良い人ばかりです。
読後感の暖かさは、登場人物の人柄と、サチの優しさによるところが大きいです。

堀田家は親子4代という大所帯なので、登場人物も多いこと多いこと。
名前も、藍子・紺・青と、青系統の色名になっているため、区別するのに、サチの解説に助けられているところもありました。

幽霊は遠くへもひとっ飛びという、お気軽さの反面、実体はなし。
何か手助けしたくてもできない、もどかしさもあります。
そこは、勘の強い孫の紺と、時折お話できるのが、救いだったりします。

キーマンである我南人ですが、エピソード不足というか、設定で言われるほど、伝説のロッカーっぽくない気はしました。
が、それはそういう設定と思って読みました。

親子4代が住み集う堀田家では、食卓風景がとっても賑やかです。
飛び交う会話のキャッチボールは、ボールが多すぎて、訳がわからなくなりそうですが、そこがまた楽しかったり。

舞台か、連続ドラマに向いている作品でした。

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2008.02.28

『一瞬の風になれ 第2部 ヨウイ』 佐藤多佳子

爽やかで、ちょっぴり泣けて。
変わらず魅力あふれる青春小説。
『一瞬の風になれ 第1部 イチニツイテ』の続編です。

個人的には、前作から間が空きすぎてしまって、最初は名前とキャラクターを思い出すのに戸惑いました。
が、読んでいるうちに、自由でのびのびとした、春高の雰囲気にすっと入っていきました。

地道な日々の練習と、緊張の試合。
ほとんどがその二つの場面であるのに、こんなにも魅力的で、引きこむ力があるのは何故でしょう。

新二の語り口が自然で、自分も一緒に経験しているような、そんな気持ちになれるからかもしれません。

雲の上だと思っていたトップランナーたちに、自分がだんだんと近づいていく、手ごたえ。
地道な体作りから生まれた「体が軽くなるような感覚」は、一緒に味わっているような気がして、爽快でした。

軽やかで天才で、でも脆さのある、連。
タフで、練習好きで、地道な神谷新二。
対照的な二人に、新たな後輩が加わって、ますます魅力ある部員構成になっています。
桃内の関西弁と、ユーモラスなキャラクターには、笑っちゃいました。

新二の成長だけでなく、ライバルであり親友の連の成長からも、目が離せません。

バーベキュー大会のような、仲間で過ごす楽しいひと時があり。
谷口若菜への、淡い思いがあり。
部活動中心の生活をしていた、自分の学生時代を思い出させてくれます。。

ずっと完璧すぎた健兄が、脆さを見せたのは衝撃的でした。

どん底からの一歩。
これから山積する問題をどうクリアしていくのか、第3部を早く読みたいです。

「4062136058」

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2008.02.04

『読み違え源氏物語』 清水義範

葵上の日記風にして、綴っていったり。
典侍の昔語り風にしたり。

角度を変えて『源氏物語』を楽しむ本です。

意表をついた面白さだったのが、冒頭の「夕顔殺人事件」。
『源氏物語』は名作ミステリーである、とのたまう千原。
「夕顔」の死の真相を、推理小説として読み解いてゆく、というものです。

ミステリと『源氏物語』、両方を笑いにしてしまっていて、面白かったです。

朧月夜が「月子」。
弘徽殿女御が「弘子」。
というように、現代風に置き換えて「読み違え」しているパスティーシュもあります。

この現代モノは、日本とアメリカというように舞台を変えつつも、いくつか続きます。
ワンパターンだったので、やや飽き気味でした。

もっといろんなパターンを見せてくれたらいいのに、と思ってしまいます。

田辺聖子著『私本・源氏物語』を、ユーモアと楽しめる人にはお薦めです。
『源氏物語』を冒涜している、と感じてしまう方には、薦められないです。

人物名を変えている章も多く、原作では誰のことか、正式名称が登場しない章も多くあります。
ストーリーと人物名を把握していないと、充分に楽しめないかもしれません。

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2007.12.17

『赤朽葉家の伝説』 桜庭一樹

評判を聞いて借りてきたところ、『このミステリーがすごい! 2008年版』国内編第2位との情報が。
最優先で読みました。

ミステリっぽさは薄かったですが、前半の昔語りに、大いなる存在感がありました。

段々の丘の上に建つ、大きなお邸。
旧家、赤朽葉家の歴史をつづった物語です。

愛人あり、無理心中あり。
『華麗なる一族』のような、巨大だけれどどこか退廃した一家族の、歴史を描いています。

その物語自体は力がありますが、これはミステリなんだろうか、と自問自答しながら読んでいました。

祖母・万葉は、未来を"視る"千里眼奥様として、赤朽葉家を守り。
母・毛毬は、レディースの頭から漫画家と、ドラマチックな生涯。

そして現在、平凡な今を生きる、娘の瞳子。

残り少なくなったところで、突如、謎が提示され、やっとミステリらしさが出てきます。

オチそのものは、ものすごい衝撃、というほどではなく、やはり前半の昔語りが、大いなる存在感。

優等生のレールの中で生きる者もいれば、全く外れた生き方をする者もいる。
昭和の時代を匂わせた、さまざまな生き様が、鮮やかです。

力のある物語でした。

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2007.12.11

『やまだ眼 世の中の微妙な真実』 山田一成/佐藤雅彦

お笑いコンビの山田一成が、その瞳を通して見た、世の中。
その斬り口に、佐藤雅彦が解説をつけます。

毎日新聞の連載に、書き下ろしネタを加えた本です。

「いつもここから」のネタと同じく、「あー、あるある」と感じるネタが、ほとんど。
そしてどのネタにも、受け手である山田一成の、戸惑いや困惑が、垣間見えます。

こういうこと、あるよね。
でも、どうしようもないよね。

という諦念がそこはかとなく漂い、独特のリズムを持った作品になっています。

また、添えられた佐藤雅彦の解説も、いいです。
『プチ哲学』に代表されるように、この方も、独自の目線を持った方。
切れ味鋭い、刃の交錯のような、クールなコンビとなっています。

4章の終わりには、新聞連載時のレイアウトが、そのまま掲載されています。
タイトルデザインから、フォントサイズのバランスから、拘りのコーナー。
贅沢を言えば、このデザインのまま読んでみたかったです。

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2007.11.28

『くちぶえ番長』 重松清

雑誌『小学四年生』の連載に、書き下ろしを加えたもの。

ジャンルとしては児童書でしょうか。
けれども、大人が読んでも心温まり、そしてほろりとする物語です。

『虹色ほたる 永遠の夏休み』と続けて読んだので、気分にもぴったりでした。

4年1組に引っ越してきた転校生マコトは、ちょっと変わった女の子。
弱いものいじめが嫌いで、群れなくて、努力家で、そして優しくて。
なんといっても、めざすものが番長という、ツワモノなのでした。

主人公のツヨシは、先生に怒られたことのない、優等生。
ところがマコトと触れ合っているうちに、少しずつ変わってきて・・・・・・というお話。

1章1章ごとに、一人ひとりが、少しずつ逞しく成長し、友情も芽生えていきます。
月刊誌でひと月ひと月、ともに成長を感じながら読み進めるのは、子供たちにとっても、とても楽しい体験だったのではないでしょうか。

自分から積極的に動くことのなかった、ツヨシの変化とか。
一つ一つの出来事を乗り越えての、クラスメイトの変化とか。
マコトが実行する、友達への優しさの示し方とか。

子供の心の揺れ動きが、細やかに描かれていて、どの子供も魅力的です。

子供たちを温かく見守る、パパとママも素敵でした。
特に悲しい出来事に出会ったときの、パパとママの対応は、立派です。
自分が親として同じことが出来るかな、と考えさせられてしまいます。

強いて言うと、先生の存在感が希薄だったような。

大人が読んでも、懐かしさと心地よい涙を流すことができますし、子供たちにもぜひ読んで欲しい一冊です。

この本を読むきっかけとなった、のほ本♪さまのレビューでも、

読んだ人なら間違いなく懐かしさを感じる作品だ。甘酸っぱいような、ほろ苦いような思い出・・・。心をくすぐられる。

と薦められています。

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2007.10.17

『精霊流し』 さだまさし

長崎の原爆投下。
戦後の引き上げ。
家族や友人の、愛と葛藤。

歴史の中に生きた、人々。
人と人との付き合いの、さまざまを盛り込んでいて、何度も涙する場面がありました。

物語の芯となるのは、ミュージシャンとして活躍している、櫻井雅彦。
ですが話には、他にもさまざまな人が登場します。

雅彦の両親である、雅人と喜代子。
喜代子の姉・節子と、息子の春人。
喜代子の妹の、「とみちゃま」こと、登美子。
雅人の恩人である、岡本。
雅彦のバンド仲間・・・・・・。

数え切れないほどの周囲の人々が、巡り巡って繋がっていきます。
雅彦だけでなく、彼らの思い出をも織り込みながら、進んでいく物語なのです。

戦争の話だけではなく、ヴァイオリンを通した交流話が合ったり。
家族や親戚の話だけでなく、友人の物語があったり。

時系列、登場人物も飛ぶので、切れ目なく追い続ける、という入り込み方ではなかったです。
それでも、広い懐のある物語だったと思います。

さまざまな、愛情、友情、信頼。
それを経ての、さまざまな死。

生きていると、人にはさまざまなかかわりがある。
そのいろいろな想いをのせて、死者は旅立っていくのですよね。
優しい語り口で、たくさんの人のあたたかさを感じられます。

亡くなった人を悼み、そして別れを告げる「精霊流し」の、重みを味わいました。

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2007.09.27

『眉山』 さだまさし

映画のプロモーションがきっかけで興味を抱き、原作を読んでみました。

前半から涙が止まらず、最後まで泣きっぱなしでした。

女手一つで咲子を育ててきた、母。
この夏を越せるかどうかだと、主治医から宣告されます。

最後の夏をすごす、母子。
語られなかった、咲子の父親とは。
新天地に徳島を選び、献体の意志を固めた、母の想いとは。

人々の想いが交差し、優しい世界を作り上げています。

とにかく優しくて、泣けてくる作品でした。
ドラマチックで、劇的なエピソードを重ねているわけではないのに、一つ一つのエピソードが、会話が、胸を打ちます。
方言も、人々も、ゆるやかな時間も、全てが優しいのです。

チャキチャキの江戸っ子で、喧嘩っぱやく、でも後腐れなく、情に脆く。
曲がったことには反発し、権力にはなびかない。
母"神田のお龍"のかっこよさが、光っています。

強く、逞しく、凛々しく。
皆を愛し、皆に愛され、全てを見通して、しゃんと生きている。

並大抵の懐でなれる人物ではないですが、こんな人になれたら素敵です。

あまり身近でない献体についても、勉強になりました。

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2007.08.17

『しゃべれどもしゃべれども』 佐藤多佳子

国分太一主演で、映画化された作品。
ほろりとして、心温まる一冊でした。

主人公の今昔亭三つ葉は、小三文の弟子で、落語を生業としています。
従弟の良から「吃音に悩まされている」と泣きつかれ、「話し方教室」もとい「落語教室」を始めることに。
何をどう間違ったのか、更に3人もの生徒(?)が現れて……というお話。

4人の生徒たちは皆、自分の思いを上手く言葉にできず、悩み、苦しんでいます。
三つ葉自身も、恋と落語の壁にぶつかり、自信を喪失していきます。

常に大人びた振る舞いをしていた、小学生の村林。
最後の東西対決で、素直にはしゃぐ姿に、じんわりと涙しました。
この最後の客席の、暖かくて、優しい反応が、心地よいです。

全ての物事が一挙に解決、とは簡単にいかないものの、それぞれが一歩を踏み出す。
読後感の心地よい一冊でした。

何事もいきなり大団円とならず、でも心地よい世界は、同著『一瞬の風になれ 第1部 イチニツイテ』と共通ですね。

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2007.07.26

『毎月新聞』 佐藤雅彦

「だんご3兄弟」や「ピタゴラスイッチ」の生みの親で、多才な佐藤氏のエッセイ。

毎日新聞で、月1回掲載されていた、日本一小さな全国紙。
4コマ漫画ならぬ、3コマ漫画も載っており、とっても楽しい作品です。

「だんご3兄弟」がブームの真っ只中のときに、本人が語る「ブーム断固反対」。
「必要」だとか「好き」で買うのではなく、「手に入れること」で満足してしまうブームの荒涼感について語っています。

面白かったのが、靴を履いた後、忘れ物に気がついたとき、どうやって取りに戻るかというお題。
片方だけ靴を脱いで、けんけんする。
両膝をついて、つま先は浮かし、すり足で行く。
はたまた両手で古新聞を持ち、垂らしたところに足を乗せる「殿中でござる」方式など。

この回答だけでも面白いのですが、またそこから導き出している「おじゃんにできない」心理の洞察も鋭いです。
どの新聞も、うなずきながら読んでいました。

同じエスカレーターの絵でも、人の横顔を付け加えることで、のぼりか下りかを表現できるとか。
絵、文字、それらの「表現」の力というものへの指摘も、はっとさせられることばかり。
CMプランナーの物事の見方について、触れることができます。

平易な文章と、可愛らしい挿絵で読みやすいのに、どこか考えさせられたり、学んだりできる一冊でした。

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『私は美人』 酒井順子

「美人」という言葉の持つ魔力、不確かさ、あやふやさなどを、鋭く切ったエッセイ。

政界の美人は「マドンナ」と称され、皆一様に、独特の髪型、スカート丈、スーツの色合いを保っています。
この独特の感覚を、斬ってみたり。

スチュワーデスと女子アナウンサーは、高倍率を勝ち抜いた美人が多い職業です。
しかし、全員が全員、本当に「美人」であるとは限りません。
それなのに、とにかく世間が「美人」と見るのは、何故なのかを考察してみたり。

どれもが鋭く、うなずくことが多かったです。

やや毒舌気味なところはありますが、やはり根底には鋭い観察力があり、その解説に納得してしまうことが多かったです。

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2007.07.11

『プチ哲学』 佐藤雅彦

「だんご3兄弟」を作った方の本、ということで興味を持ちました。

絵の可愛らしさはもちろんですが、文章の面白さ、発想の斬新さも面白かったです。

常識を持っていながら、発想の転換ができる。
別の観点から、物事が見られる。

世の中をこんな風に見ることもできるんだ。
だからいろんなものを生み出せるんだ、と目から鱗が落ちるような本でした。

一つ一つの話は短くて、読もうと思えば一気に読めてしまう本です。
けれども、一つ一つをじっくり考えて味わった方が、深みの出る一冊だと思います。

6コーヒーカップたちのテーマ「無垢」ということは、「だんご3兄弟」の可愛らしさに繋がるな、と感じました。
オチもストーリーもなく、本人たちの日常を描いたイラスト。
自分の役割を素直に、一生懸命果たしている、その無垢さが、心を打つのだと。

読んでみると、湖池屋「ポリンキー」、NEC「バザールでござーる」、サントリー「ピコー」のCMプランナー。
PSソフト「I.Q」や「ピタゴラスイッチ」の企画。
「カローラⅡにのって」の作詞。

等々、記憶に残る、キャッチーなものを数多く生み出されている方なのですね。
他の著書も読んでみたくなりました。

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2007.07.08

『一瞬の風になれ 第1部 イチニツイテ』 佐藤多佳子

爽やかで、心地よくて、そして時々、涙がホロリ。
読んでいてとても楽しい青春スポーツモノで、続きをすぐに読みたくなりました。

新二の兄は、プロスカウトから声がかかるような、天才サッカープレイヤー。
新二自身も、同じようにサッカーを続けているのですが、思うように結果が残せません。

悩んだ末に、新二が選んだのは、サッカーの強い高校ではなく、普通の公立高校。
しかもひょんなことから、陸上部へと入部を決め……というお話。

春野台高校の陸上部は、独特の雰囲気を持っています。
上下関係が全く厳しくなく、お互い支えあい、励ましあって頑張っていきます。

天性の才能を持ちながら、練習に不熱心な連。
逆にパワフルな情熱を持つ、根岸。
なぜか風水が好きで、絶妙なタイミングで和ませてくれる、浦木先輩。
部長として、しっかりと支えてくれる、守屋先輩。

どの生徒も味があって、皆応援したくなってしまいます。

みっちゃんこと、顧問の三輪先生も、個性派です。
鳥の巣みたいな天然パーマ頭で、つかみどころのない性格。
無理をさせるスパルタではなく、本人の素質を伸ばすような指導をしていきます。

他校にはもちろん、厳しく指導するのが信条の顧問もいます。
普段はのらりくらりとしている三輪が、最後の一線で、自分の指導法を貫く辺りは、爽快です。

初めて陸上に触れる新二は、何もかもが手探り。
陸上のイロハ、体の作り方、試合の難しさなど、一緒に学ぶことができます。

一方、天才肌の連は、嫌なことがあるとすぐに陸上から逃げようとします。

春高の4継(400Mリレー)は、強くなれるのか。
そして恋の行方は……?

目の離せない展開で、続きが気になるところです。

天性のスターが親友で、部の雰囲気が和気藹々としていて、爽やかで、ちょっぴり泣けて。
『1985年の奇跡』と似た作品です。

この本を読むきっかけとなった、のほ本♪さまの「レビュー」でも、

彼ら4人が風になったときは、「やったー!」と叫びたくなった。読後もさわやか。心に残る作品だった。

と、その爽快感を褒めていらっしゃいます。

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2007.06.17

『警察庁から来た男』 佐々木譲

『うたう警官』の続編。
佐伯、新宮、小島といった面々が、再び活躍します。
個人捜査のはずが、何事もうまくいきすぎる感はありますが、やはり面白い一冊。

今回も北海道警察本部に、震撼が走ります。
警察庁から特別監察が入ったのです。

担当の検察官は、警察庁キャリアの藤井警視正。
目的をはっきりさせない藤井は、なぜか百条委員会でうたった津久井刑事を呼び出し、手伝わせるのでした。

一方、佐伯と新宮は、とある男性の元へと向かいます。
ホテルの部屋が荒らされたものの、何も盗られた形跡がないという、不可解な事件。
彼は、事故として処理された息子の転落死について、再捜査を求めてやって来たのでした。

キャリアの藤井組と、ノンキャリアの佐伯組。
それぞれの捜査が、いつの間にか重なり合い、事件の真相が明らかに……というお話。

今回は、キャリアの藤井が、爽やかでした。

感覚は当然キャリアなので、ノンキャリアの苦労を分かっていなかったり。
けれども、そういうことも素直に謝れるところが、他のキャリアとは異なり、好感が持てました。

本来の捜査舞台とは別のところで、今回も自分たちの勘と正義感を頼りに、捜査を進める佐伯たち。
捜査についても、津久井の処遇についても、うまく繋がりすぎるきらいはあるものの、よくできていて楽しい作品です。

気になったのは、小島のアフターケア、というエピソード。
今後、佐伯と小島になにか展開が? と気になるところです。

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【2009.05.26 追記】
『警官の紋章』読了しました。

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2007.05.08

『うたう警官』 佐々木譲

『このミステリーがすごい! 2006年版』第10位。

過去の不祥事が原因で、大規模な人事異動が発生した北海道警察。
同じ地域、同じ職種への連続勤務は、癒着を招く。
定期的に部署を入れ替えさせることで、解決を図ったのですが、結果は畑違いの素人ばかりが業務につき、捜査がままならないという異常事態に陥ったのでした。

これは『制服捜査』と同じ世界、同じ設定ですね。

『制服捜査』は、田舎の一駐在さんのお話でしたが、今度は道内最大の札幌が舞台。

過去に命を預けあったパートナー、津久井が無実の罪を着せられ、射殺されようとしています。
津久井を救うために、佐伯はこっそりと捜査に乗り出します。

今回の主人公・佐伯自身も、刑事事件には素人ですが、頼れる協力者がいます。

盗犯係で15年間勤めた、諸橋警部補。
新しい移動の原則も適用されない婦人警官の、生活安全課総務係の小島。

別の部署に配属されていても、捜査の上では遺憾なくベテランとしての能力を発揮してくれます。
事件の裏を「見る」ことができる、頼もしい面々なのです。

有志による非公式の捜査ですが、彼らベテランの力もあり、本来の捜査本部がやっている作業と、遜色のないものになっています。

津久井を射殺しようとする本部との、駆け引き。
逮捕状など取れない状態での、知恵を使った捜査。

真相の究明だけでなく、別の謎も含まれており、警察モノとして、充分楽しめる作品です。

難を言うと、名前ばかりが記号として歩いているようで、なかなか人物の個性が頭に入ってきにくい部分がありました。
主人公の佐伯、濡れ衣を着せられた津久井、唯一の婦人警官小島、若くて未熟な新宮はいいのですが、それ以外の入れ替わり立ち代り動く面々が、やや分かりにくかったです。

『警察庁から来た男』は、内容からしてこの作品の続編に当たるような気がします。
探してみようと思います。

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【2007.06.17 追記】
『警察庁から来た男』読了しました。

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2007.01.03

『制服捜査』 佐々木譲

『このミステリーがすごい! 2007年版』、国内第2位。
それだけの面白さがありました。

刑事ものというと、捜査権のある警察官が、犯人との攻防を繰り広げたり、警察内部の軋轢と戦ったり。

ところが今回の主人公は、小さな農村の駐在さんでしかありません。
本人に捜査権はなく、何かあったとしても上に伝えるだけしかできません。

その「上」がしっかりしていればいいのですが、そこにも問題があります。

癒着による不祥事が発覚した北海道では、一定以上同じ場所に勤務していた警察官は、異動させられることになりました。
玉突き人事によって畑違いの警察官が増え、専門家が減り、警察機能は低下しているのでした。

今回、駐在所勤務になった川久保も、元強行犯係の優秀な捜査員。
一見平穏に見える町の些細な出来事にも、事件性を見抜いてしまうのです。

川久保には見えていても、肝心の捜査権を持つ警察官はみんな畑違いで、事件の真相が見えてこない...。
もどかしい中での川久保の活動が始まります。

表面的には穏やかな町の空気や、人々の性格。
そういった表現がうまく、すっと世界に入り込んでいきます。
横山秀夫の世界に似ているものを感じました。

そして最後の「仮装祭」の怖さにはぞくぞくさせられました。
駐在さんという珍しい、捜査において地味な視点から、これだけのものを描けるのですね。

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2006.09.07

『バーティミアス3 プトレマイオスの門』 ジョナサン・ストラウド

『バーティミアス サマルカンドの秘宝』『バーティミアス2 ゴーレムの眼』と、充実の3部作、ついに完結。
最後は涙が溢れてしまいました。

時は巡り、ジョン・マンドレイクことナサニエルは、ついに情報大臣にまで登りつめます。
ずっと欲していた地位と名声を手に入れ、計算ずくの毎日を過ごすマンドレイク。

長期間にわたって解放されなくなったバーティミアスは、ついに瀕死の危機を迎えます。
そこでナサニエルの心には変化が芽生え...というお話。

今までも分厚さに見合う充分読み応えのある作品で、1冊1冊で話は完結していました。
完結編では更に、シリーズ全体に散りばめられた伏線が一つになり、全てに謎が明らかになっていきます。
これほど内容が濃く充実したシリーズは、今まで例を見ません。

キティの免疫力。
歴史は繰り返す。
あごひげ男の正体。
バーティミアスとプトレマイオスの関係とは。

次から次へと明らかになる真実に、今まで以上に目が離せません。

ユーモア溢れる脚注と堂々とした態度、そして機を見るに敏な老獪さ。
ナサニエルでは太刀打ちできないジンであったバーティミアスが、弱々しくなっているさまは衝撃的でした。
それでも、弱くなったなら弱くなったなりに行動する、彼の魅力は変わりませんね。

一方ナサニエルは、どうも利己的で完全には共感しがたいでしたが、キティと再会してからの彼は変わりました。
最後まで口喧嘩の耐えない2人でしたが、最高のコンビ(そう、主従ではなく対等な)であったと思います。

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2006.08.22

『とるこ日記』 定金伸治 乙一 松原真琴

"ダメ人間"を自認する作家トリオの旅行記。
ゆるくて、マイナス思考で、後ろ向き。
そんなダメダメ3人組ですが、お互いへのツッコミが絶妙で楽しかったです。

元々ネット上で公開されていたのを単行本にした、所謂ブログ本とのこと。
左側に本文、右側に本文へのツッコミコメントと、特殊な形態で書かれています。

更にツッコミへのツッコミが連なったり、ページを跨いでやり取りが続いたりするので、慣れるまでは読みにくかったりしますが、このツッコミが笑いのポイント。
どこまでが真実でどこまでが虚構なんだか分からなくなるような、なんともいえないゆるい会話が続いています。

旅の最中につけていた各々のメモに関する話題がよく出ますが、その内容は旅行記とは全く関係なく、脱線に次ぐ脱線が続きます。

この雰囲気は、乙一のエッセイ『小生日記』に似ていますね。

マレーシア、そしてトルコと旅をしていても、旧所名跡の話題は少ないです。
行った遺跡の写真は掲載されているものの、添えられているエピソードは全く無関係な話題だったりします。
ブルー・モスクの丸い屋根を見て「肉まんとあんまんではどっちが先に発明されたのだろうか」と考えてしまうのですからw

そんな3人でも「ここは!」と感動を綴っている遺跡があり、それはよっぽど素晴らしい感動が得られる場所なのだろうと、逆に思ってしまいました。

写真館にたっぷりとフルカラーの写真が掲載されているので、読了後に見返すと味わいが深まります。
「『ロマンシングサガ』の背景みたい」「イコが飛び乗るために存在しているとしか思えません。」など、核心を突いたコメントも秀逸です。

どこまで本気かよく分からない嘘や、ブラックなトークを得意とする、乙一。
頼れるようで実は適当な、定金伸治。
その中で紅一点・松原真琴だけは、同じ空気に染まっているようで、しっかりした一面を見せていました。
ダブルボケの男2人に対して事実を補足してくれたり、全食事をまとめた「献立表」ができたり、彼女のこまめさあってこその仕上がりですね。

本文中でちょっと登場したネタ『毒殺天使』も、結局乙一が書き下ろすことに。

この袋とじ巻末にあるパスワードを利用すると、連載当時のWEBサイト「とるこ日記」を閲覧できます。

単行本ではモノクロの写真やイラストも、フルカラーで載っていました。
ただしツッコミおよびツッコミのツッコミはクリックしないと読めないので、見開きになった単行本の方が読みやすいですね。
vol.4にある乙一のノベルゲーム風ツッコミだけは、実際にクリックすると違った楽しみがありますね。

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2006.05.12

『バーティミアス2 ゴーレムの眼』 ジョナサン・ストラウド

第1作に勝るとも劣らない面白さでした。
分類すると児童書になるのかもしれませんが、大人も一緒にわくわくできる作品です。
今回も分厚いですが、読み始めてしまえば冗長な部分は全くなく、最後まで楽しめます。

第1作の謎を踏まえて発展し、更に第3作への新たな伏線も含ませる。
これは単なる"シリーズ"ではなく、"三部作"の中の1冊である、と痛感しました。
順番どおり、『バーティミアス サマルカンドの秘宝』から読むことをおすすめします。

魔術師のナサニエルと、ジンのバーティミアス。
反魔術師で、前回は少ししか出番のなかったキティ。
そして謎の犯人。

グラッドストーンの杖を巡る3つの視点を描きこんでいるため、前作よりやや複雑になったかなとは感じました。

2年8ヶ月の年月は、まだ幼かった子供たちを成長させました。
まだまだひよっ子だったナサニエルは、5000年以上も生きているバーティミアスに、やり込められっぱなし。
魔法界の裏話や皮肉は、バーティミアスの脚注に拠るところが多かったです。

が、ナサニエルは地位も上がり、実力も身につけました。
若干14歳で国家保安省の補佐官に抜擢された自信は大きく、バーティミアスと対等とまではいかなくても、それなりにやり合えるようになりました。
勝気なキティが、バーティミアスやナサニエルをやり込めていく姿も、爽快です。

バーティミアスの脚注も面白いままですが、子供たちとのやり取りでも楽しませてくれるようになりました。

金原瑞人は、『チョコレート・アンダーグラウンド』の訳者でもあるのですね。
厚みを感じさせず、大人も楽しく惹き込んでくれる、魅力ある訳をする人だなと思いました。

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【2006.09.07 追記】
『バーティミアス3 プトレマイオスの門』読了しました。

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2006.03.12

『バーティミアス サマルカンドの秘宝』 ジョナサン・ストラウド

最初はその分厚さに驚くものの、読み始めると止まらなくなる、素晴らしいファンタジー。

「ハリー・ポッター」シリーズの対抗馬が出てきた!

と訳者・金原瑞人氏が言うのも頷けます。

舞台は、ロンドン。
国を動かしているのは優秀な魔術師で、魔術を使えない一般人は見下されている世界です。
魔術師が支配する国同士は、戦争を繰り返しています。

そんな折、見習い魔術師のナサニエルが、独り中級レベルの魔人(ジン)・バーティミアスを召喚し、大胆な行動に出るのですが...というお話。

ナサニエルは、師匠が思うほど出来損ないではなく、見習い魔術師にしては高度な技術と野心を持っています。
しかしながら精神面の未熟さ、経験不足による危うさ、子供っぽさも残しており、完璧とは言えません。

一方バーティミアスは、5000年以上も生きている、それなりに経験をつんだベテランです。
ナサニエルの衝動的な行動に鋭い指摘を入れたり、おちょくってみたり、魔法界の常識を教えてくれたりします。

若さゆえの純粋さと、ベテランならではの保身。
未熟さと老獪さ。
この相反するコンビのバランスが絶妙で、そのやりとりを楽しめます。

ジンは、好き好んで命令に従っているわけではないので、隙あらば魔術師の弱みを握って逆襲しようとします。
逆に魔術師は、罰や万が一に備えた保険を駆使し、裏切られないようにするのです。
そんな本来犬猿の仲の2人でありながら、協力し合い、時には助け合っていく、奇妙な絆が見物です。

紀元前1478年のトトメス三世の作った混成部隊で活躍したこと。
ピサの斜塔の建設にアドバイスしたのに聞き入れられなかったこと。

バーティミアスが披露してくれる過去のエピソードは、作品に奥行きを持たせ、その世界観を広げてくれます。
バーティミアスの脚注は、本文に突っ込んだり、皮肉を利かせてみたり、ユーモアもあり、特に面白かったです。

驚いたことに、これだけのボリュームがありながら、「バーティミアス3部作」の第1部でしかないとか。
残りの2作品も、ぜひ読みたいものです。

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【2006.05.12 追記】
『バーティミアス2 ゴーレムの眼』読了しました。

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2006.03.06

『生協の白石さん』 白石昌則

ネットでいくつかは単発的には見ていたものの、改めてまとめて読んでも面白いものです。

明らかにネタ振りであり、生協とは関連性のない質問には、のびのびと自由な発想を披露。
本来の目的である仕入れ商品に対する要望でも、ユーモアを交えた返答なのが面白いです。

ティッシュをおいてほしい

という要望に対し、ティッシュ売り場の場所と価格について説明を入れた後、

また、運が良ければ1F入口前で自動車教習所がキャンペーンを行っている際、無料でもらえたりもします。

と添えてある部分に、思わずふっと微笑んでしまうのです。
白石さんの人柄がにじみ出ているような、そんな暖かな笑いがあります。

ご本人のお話である「白石さんからの言葉」コーナーも興味深いです。

自分がネットで噂になっていることを知ったときの衝撃。
ブログがんばれ、生協の白石さん!管理人からの、公認を求める投稿を見たときの驚愕。
生協とは関連のない投稿に、時には憤りを感じたという本音。

「ひとことカード」の影にある、白石さんの思いを感じられました。

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2006.01.10

『月宮の人』 杉本苑子

お市御寮人。
その三人娘・お茶々(淀君)、お初、お江。
そしてお江の娘・和子。
3代に渡る女性の生き様を、お側に仕えた3人の目を通して語った歴史小説。

語り口なので、すっと世界に入り込めました。
誰が天下を取るか分からない、微妙な駆け引きを必要とされた情勢から、江戸城を建築し、新しい街が生まれていく活気までが伝わってくる作品です。
全編を通して、流麗な文章を堪能しました。

お市の最初の夫・浅井長政の、微笑みの影にある冷静さ。
次の夫・柴田勝家の、豪放磊落な大熊のような温かみ。
戦歴や主従関係ではなく、その人となりを描きだすエピソードによって、裏切り裏切られの複雑な人間関係の中、混乱せずに世界に入り込めたのでしょう。

お江といえば強気の年上妻。
対する・夫秀忠といえば、恐妻家で大御所の影に霞む、今ひとつの存在というイメージを持っていましたが、今回の秀忠の、先を見据えた克己心と、強気な辣腕振りに驚きです。

逆に幕政を安定させたはずの家光は、間が抜けていて魅力や統率力を感じられず、人の上に経つ才を感じられませんでした。

このように、細やかなエピソードで浮かび上がらせる人物像には、イメージを覆させる力がありました。

夫を殺した敵に再嫁したかと思えば、またその嫁ぎ先が攻め込まれてしまったり。
愛する夫と引き裂かれた上に、新しい夫の立場を通して、姉妹で攻め滅ぼしあわなければならなかったり。
この母娘たちは、まさに激動の人生ですね。

公儀を仇と考える宮中、四面楚歌の禁中に入内する心痛は凄まじいとは思いますが、お市やその娘たちの迫力に比べると、最後の和子はいささかトーンダウンした、穏やかな人柄です。
お市やその娘たちの激動の流れを収めるには、この穏やかさが相応しいのですね。

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   【補足】
おすすめの関連小説。
平岩弓枝『千姫様』
宮尾登美子『東福門院和子の涙』

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2005.07.26

『あみものおつきさま』 しばはら・ち

お月さまの表情が優しくて、ほのぼのする絵本です。

夜空を巡りながら、森の動物たちに頼まれて、お月さまが毛糸で編み物をしてあげます。
自分の帽子の毛糸が減ってしまっても、嫌な顔一つしないで編んであげる優しいお月さま。

仕上がった帽子は大きすぎたり細すぎたりして、お布団にされてしまったりマフラーにされてしまったり。
本来の目的ではないけれど、みんなが喜んでくれることで、お月様はにっこりします。

お月様も動物たちもお互いが嬉しそうで、幸せな気持ちになります。

夜のお話なので、全体的に蒼く暗い色合い。
その中で、大きくてまん丸いお月様の黄色が一際明るく輝き、毛糸のピンクがアクセントになっています。

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2005.07.22

『女王卑弥呼』 三枝和子

卑弥呼は極めて有名な女性でありながら、その具体像を想像することができません。
そもそも邪馬台国自体がどこにあったのか、諸説あって定まっていないことも、具体性に欠ける一因かもしれません。

あとがきによれば、今回は吉野ヶ里を想定しながら書いたとのこと。
直接吉野ヶ里を指し示す記述はなかったと思うのですが、邪馬台国から見える山々や城柵、水田で稲作をする生活感が、生き生きと感じられました。
筆者に確固としたイメージがあったからなのでしょう。

卑弥呼といえば占いや神がかりで国を治めたと考えていましたが、三枝和子の描く卑弥呼は、更に一枚上手です。
属国からの貢物へ存分な礼をすることで、属国との関係を円滑にすること。
各国との状況を踏まえた上で、自らを最大限に活用する実行力。
民衆に必要なものは何かを見抜く、鋭い目。
側近の男たちが卑弥呼を支えているのか、卑弥呼によって上手く使われているのか、判断できなくなるような政治手腕を発揮します。

固有名詞の漢字や、古文調の一部の台詞が読みにくきらいはありますが、感情を持ち、さまざまな策を的確に講ずる、具体的な卑弥呼を感じられたのはよかったです。

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2005.06.10

『山河寂寥 ある女官の生涯』 杉本苑子

私の好きな、女性を通して歴史を見つめる形式の小説です。
聡明で負けん気が強く、政治の先を読む力に長けた藤原淑子の生涯を描いています。

藤原高子は記憶にあったのですが、淑子に関しては全くの無知でした。
女官として生きる彼女は、"身分の高い男の妻"というだけの女性よりも、ずっとずっと深く政争に関わっていきます。
立派な藤原家の戦闘員なのです。
その逞しい采配振りには舌を巻きました。

驚くほどの手腕を発揮しながら、女官最高位階「正一位」まで上りつめていく彼女の生き様に、目が離せません。
身分の高い男の妻として、子供たちを生み、その婚姻関係によって歴史を見つめるという女性が主人公では、ここまで政争の裏舞台を描き出せないでしょう。
女の世界と、男の世界、両方をたっぷりと堪能できる、お奨めの一冊です。

藤原家といえば道長にスポットが当たりがちですが、良房・基経時代は珍しく、歴史小説としても新鮮でした。

この本は、rekko's libraryさまのレビューがきっかけで読みました。

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2005.05.25

『新とはずがたり』 杉本苑子

西園寺実兼を通して、鎌倉時代の動きを描いた小説。
実兼は、政権を担っている関東と、廷の間を取り持つ関東申次役。
彼の目を通すことで、執権北条家と朝廷内の両方をつぶさに描くことに成功しています。

後深草院方の持明院統と、亀山院方の大覚寺統がどのようにして分裂し、対立していったのか。
折に触れ家系図を用いていて分かりやすく、それぞれの性格も描きこんで小説化してあるので、この時代の動きが手に取るように頭に入ります。
その駆け引きのドラマ、偶然の悪戯によって二転三転する展開。
歴史の苦手な私でも、思わず入り込んで読んでしまいました。

原典『とはずがたり』は、女房二条の赤裸々な日記だそうです。
陰気でありながら芯は強く、我儘で突飛な彼女は、唯一のヒロインでありながら、今ひとつ魅力には感じられませんでした。
でも、彼女の日記があったからこそ、このような小説が生まれたのですね。
彼女を脇に置き、主人公は実兼にすることで、原典はなかった、政治・軍事・外交といった"広い目"が盛り込まれ、深みのある小説になっています。

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2005.05.15

『枕草子REMIX』 酒井順子

教科書に掲載される『枕草子』とは違った面白さを紹介するエッセイ。
1段ずつ訳すのではなく、必要に応じて、部分部分を抜粋(=REMIX)して紹介しています。
今までになかった斬新な紹介の仕方で、とても楽しい一冊です。

本文を読むことよりも、そこから清少納言の価値観・好み・観察眼といった感性を追求し、彼女の人となりを明らかにするのがメイン。
清少納言を「もう若くはない、離婚歴ありのキャリアウーマン」と捉えたり、女ばかりの宮仕えを「女子校」になぞらえたり、切り口が独創的で現代的なんです。

原文には必ず著者訳がついていますので、古典が苦手な方でも大丈夫。
「まだマシ!」「わからんのかッ!」と、『桃尻語訳 枕草子』に近い現代的なノリの訳し方なので、親しみやすいです。
コーナーによっては「現代になぞらえると、こんな感じ?」といった例がついていて、その適切さににやりとすることも。

特に変わっているのが、(創作ですが)清少納言と酒井順子が対談するコーナー。
清少納言も現代語で会話するので、より彼女の感性が身近に感じられます。
酒井順子自身も作中で仰っていますが、観察眼の鋭さといい、好みといい、この2人って似てますね。

短いながらもキラリと観察眼の光っているのが、「清少納言おまけの一言」。
欄外に書かれた数行のコラムなのですが、酒井順子の鋭いツッコミが際立っています。

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2005.04.18

『月に駆られて 六条御息所物語』 杉本圭

六条御息所といえば、嫉妬深く、生霊となって憎い相手を殺すという怖いイメージがあります。
しかしこの本では違った解釈がなされ、大人で冷静で懐の広い女性として描かれています。
三条の姫君(=葵の上)や夕顔など、他の登場人物の性格付けも変わっており、全体が新しい解釈で構築されています。
本編とは異なった、一つの読み物として楽しめました。

内面に異常な好みと、ある意味子供のようなところを持ち合わせた光源氏。
時々は飛び出して問題を起こすものの、基本的には御息所の掌の上で遊んでいるようです。
そのひろい懐を持った御息所像は、本編の"忘れられた女性"像とは随分と異なります。

御息所は恋人でありながら、光源氏の保護者でもあるという、複雑な立場です。
嫉妬心よりも、彼の後ろ盾としていかに対処すべきかを優先する、冷静な対応が目立ちます。

光源氏にしろ、御息所にしろ、この作品では「腰の引けた科学」として陰陽道を信じていないのが、現代的で面白いです。
この現実志向の権化のような女性が、中将の君です。
物忌み、方違え、庚申をばっさり切ってのける彼女の発言は爽快で、いいアクセントになっています。
彼女が主役になる「しのび音」が、一番面白い章でした。

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2005.02.21

『ないものねだりで日は暮れて』 酒井順子

初出が男性誌なのでしょうか。
特に若い女性の生態に関しては、ある程度の年齢の男性に分かりやすいよう、噛み砕いて説明している印象を受けました。
その分析が的を得ていて共感したり、辛口のスパイスが効いていて面白かったりするのですけれど。

"タカギさん"マリちゃん"などと仮の名前を当てはめてあるので、ショートコントのようにイメージしやすく、思わず笑ってしまうことも。
観察眼が鋭いんですよね、この方。

前半が会社を中心とした話題、後半が日常の話題でした。
将来『負け犬の遠吠え』に発展する、"適齢期に独身"の自分自身に関する考察もありました。

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2005.02.19

『火の粉』 雫井脩介

前半は、読むのが辛かったです。
つまらないからではなく、むしろ描写が上手すぎて。
何気ない日常の歯車が狂っていく様子や、善意の怖さがひしひしと伝わって、胸が痛かったのです。

事件の真相を追うミステリというよりは、心理描写を丹念に積み重ねたサスペンスですね。
状況や個性の描き出し方が上手くて、すっと世界に入って行けます。
ドキドキしながらも、ページを繰る手が早まってしまう一冊でした。

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2005.01.20

『ハサミ男』 殊能将之

タイトルから猟奇的な話かと思っていたら、純然たるミステリなのですね。

かなり早い段階で一つの推理が導かれたので、確認しながら読んでいました。
気がつかずに読んでいたら、はっとさせられるのではないでしょうか。
ネタバレになりますので詳しくは触れませんが、上手いですね。

トリックは推測できても、それだけでは分からない部分が残されていました。
その謎がいかに解決されるのか、興味を持って楽しく読むことが出来ました。

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2005.01.14

『負け犬の遠吠え』 酒井順子

「未婚、子なし、30歳以上の女性」を称した「負け犬」。
個々の事情も考慮せず、旧式な女性観を持って、ラベリングする。
随分な言葉がブームになったものだと思っていました。

ところが、元々は酒井順子のエッセイだったと知り、俄然興味が湧きました。
人間を冷静に観察して分析、批判する彼女のエッセイが好きだったからです。
一人歩きした言葉ではなく、彼女自身がどのようなつもりで書いていたのかを知るべく、読むことにしました。

私の疑問に対する回答は、「本書を読まれる前に」にはっきりと明記してありました。

人間を勝ち負けで二分することが本当は不可能であることは、私も知っているのです。が、そこを無理にでも分けてしまうと単純に面白い、というのもまた事実。

彼女はワザと型に嵌めた見方をして面白がっている。
つまりネタなわけです。
実際読んでいて、何度も笑ってしまいました。
その笑いの陰に、鋭い指摘が見え隠れしたり。

文章を真面目に受け止めて、「結婚=幸せとは限らないから、勝ちとはいえない」などと批判するのはナンセンスだと思います。

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2005.01.12

『誘拐の果実』 真保裕一

単純な誘拐モノに終わらず、家族を描いた小説。
最後まで面白く読めました。

『奪取』では偽札作り、『ダイスをころがせ!』では選挙について。
毎回特殊な世界を見せてくれるのが、真保裕一の魅力です。
今回も医療、株、法律などの知識が自然と入ってきました。
説明口調ではないのに、なんて上手いんだろうと感心してしまいます。

通り一遍の営利誘拐事件には見えず、事件の謎が興味を引きます。
そしてその不思議さを上回って、事件に関わる家族の葛藤、対立といった心理面の描写が際立っていました。
事件そのものよりも、"家族の形"がメインだった気がします。

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2004.12.25

『最後の将軍―徳川慶喜』 司馬遼太郎

『徳川の夫人たち』など、このところ大奥関連の書物が多かったので、たまには表(=将軍)から描いた本を。

実績のない慶喜なのに、なぜ英明であるという偶像がつくられ、流布されたのか。
慶喜の将軍らしからぬ、行動的な性格は、いかにして形作られたのか。
大政奉還以外あまり知識のなかった慶喜の、人となりを浮かび上がらせてくれる作品でした。

将軍であったのは2年程度ですが、その内容の濃いこと。
悲しいことに、彼は幕府の中にも味方がいなかったのですね。
孤立して絶体絶命の状態でありながら、さまざまな行動を起こせたのは、彼自身が聡明であったからでしょう。
生まれながらにして将軍の、お坊ちゃまたちにはない気概のある人だと思いました。

この本は、司馬遼太郎さんをめぐる冒険さまのレビューがきっかけで読みました。

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  【既読の大奥関連書籍】
梅本育子『天璋院敬子』
畑尚子『幕末の大奥-天璋院と薩摩藩』
由良弥生 『大奥をゆるがせた七人の女 天璋院篤姫から絵島まで』
辻ミチ子『女たちの幕末京都』
原口泉 『篤姫 わたくしこと一命にかけ』
宮尾登美子 『篤姫の生涯』
鈴木由紀子『最後の大奥 天璋院篤姫と和宮』
邦光史郎『大奥の謎 秘められた江戸の密室』
浅野妙子『大奥 第一章』
『徳川家に伝わる徳川四百年の内緒話』 徳川宗英(むねふさ)
森村誠一『大奥情炎―人間の剣 江戸編二』
杉本苑子『春日局』
宮尾登美子『東福門院和子の涙』
有吉佐和子『和宮様御留』
宮尾登美子『天璋院篤姫』
吉屋信子『続 徳川の夫人たち』
松本清張『大奥婦女記』
吉屋信子『徳川の夫人たち』

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2004.11.30

『盗聴』 真保裕一

真保裕一初めての短編集。

巻頭の表題作「盗聴」は、最初からぐいぐい引っ張ってくれる面白さがありました。
展開も速く、あっという間に読みきってしまいました。
盗聴器を探す仕事も、説明的でないのに分かりやすくて、さすが真保裕一だと感じました。
短編らしからぬ、濃い作品です。

もう一つ面白かったのが、巻末の「私に向かない職業」です。
ハードボイルド風の語り口が新鮮で、こんな世界も書けるんだなぁと感じました。

まだ完成度の低い作品もありましたが、長編とは違った色んな味が楽しめます。

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2004.10.31

『犯人に告ぐ』 雫井脩介

あちこちで絶賛されていた話題の本を、やっと手にすることが出来ました。
前評判どおり、文句なく面白かったです。

最初はあれこれ推理していましたが、そのうち邪推を放棄せざるを得ないほど、物語に引き込まれていきます。
一つ手を打っては、思いも寄らぬ展開になり、また策を練る。
足を引っ張るもの、裏切るもの、読めない思惑と焦燥...。
淀みのない展開に、一緒になってハラハラドキドキします。

警察やマスコミ、家族の描写が具体的で、生き生きとしていました。
特に、個性の没しがちな警察官の性格や考え方が、書き分けられていました。
だからこそ、心情的に巻島と同期して、胃に鉛を飲み込んだような気持ちになっていくのでしょう。

映像がありありと思い浮かぶ作品です。
『このミステリーがすごい! 2005年版』にランクインするのではないでしょうか。

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2004.10.18

『届かぬ想い』 蘇部健一

ほのぼのとした父娘のお話かと思っていると、物語は徐々に事件性を帯びていきます。
そこには、ミステリとして推理する楽しみが発生します。

今までにも何度も使われたモチーフですが、ごちゃごちゃしがちなところを、すっきりとまとめています。
伏線の張り方も上手くて、読了後に思わず読み返してしまいました。
すぐにオチの予想がつくのですが、それだけでは終わらない結末にも驚きました。

ライトノベルっぽい表紙や、軽快な文章からは想像もしていなかった、重みのある作品でした。

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2004.09.11

『送り火』 重松清

帯には「アーバン・ホラー」と謳っているようですが、ホラーという印象は受けませんでした。

いじめ、嫁姑問題、リストラ、公園デビューと、扱われているのはごくありふれた悩みです。
そんな普通の日常の歯車が少しずつ狂っていって、不思議な世界へと誘ってくれます。

まずは「かげぜん」でぐっときて、「送り火」「家路」「もういくつ寝ると」でとどめを刺されました。
空恐ろしいところや、辛いところもありながら、最後には切なく、また心温まる涙を流すことが出来ます。

舞台となるのは全て、武蔵電鉄富士見線とその周りの街。
駅名といい車体の色といい、京王電鉄の京王線をイメージしてしまいました。

電車にはさまざまな人が乗っていて、それぞれに人生のドラマがある。
満員電車の見方が変わるかもしれませんね。

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2004.08.25

『小説かげろうの日記「道綱母・寧子の恋」』 三枝和子

訪れが間遠なった夫のことを、鬱々と書き上げた、恨み節の印象が強い『蜻蛉日記』。
その道綱母に、寧子(やすこ)と名づけ、小説化したのが本書です。

新鮮だったのは、夫である藤原兼家の人柄です。
私は、色好みで薄情で、風流を解さない、あまり魅力のない男、というイメージを持っていました。
もちろんそういう一面もありますが、それだけではなく、おおらかさや茶目っ気も持ち合わせていました。

例えば、「もしもし婿殿、何でございますか舅殿」と一人芝居をするシーン。
侍女たちと一緒に、読んでいるこちらまで噴出してしまいました。
他にも、幼い道綱の口調を真似て「まちゃ来るよ」と言ったり、"尼のお帰り"と掛けて「もしもし、『あまがえる』さま」と呼びかけてみたり。

和歌の才能はなくとも、お喋りにはユーモアのセンスを感じます。
やはり摂政太政大臣という、一の人に上りつめるだけの、何かを持ち合わせた男性だったのですね。
一本気な寧子とは、合わなかったみたいですけど。

女性から訪れたり、離縁したり出来なかった当時。
男も女も複数の恋人を持つとはいえ、やはり平等(多夫多妻制)とは言えません。
なまじ美貌と家柄と才気を持ち合わせただけに、一夫多妻制の中、苦しんだのでしょう。
『源氏物語』の葵上が重なって見えました。

ここで、余談を一つ。
図書館で借りたのですが、なんと表紙の裏に三枝和子の直筆サインがありました。
三枝和子サイン
作品のイメージどおり、美しい筆跡ですね。

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2004.08.18

『小説清少納言「諾子の恋」』 三枝和子

諾子(なぎこ)とは、三枝和子がつけた、清少納言の仮の名前です。
シリーズである『小説紫式部「香子の恋」』同様、清少納言の人物像に迫った小説です。

権力に弱く、勝気で強気。
そんな既存の清少納言像を打ち破る、新しい人物像になっています。

中宮定子をお慕い申し上げているところは同じですが、基本的に控えめで無口。
機智をひけらかすために、でしゃばるようなことはありません。
深い教養によって生まれた有名な遣り取りも、実は内心どきどきしながらなんとかこなしたのだ、という解釈になっています。

『枕草子』の成り立ちに繋がる、重要な人物が中宮定子です。
男たちの権力闘争に巻き込まれながら、凋落していく中宮定子。
策略に溺れていく、一族の男たちの浅ましさと、中宮定子の毅然とした姿の対比が際立っていました。

そんな中宮定子と、意外に地味な清少納言が心を通わせる過程が、上手く綴られています。
清少納言はなぜ『枕草子』を書いたのか。
どのような理由で、テーマやエピソードを絞っていったのか。
彼女の心情に上手く迫っています。

襲の色目や、調度品の描写がとても美しく、想像力をかき立てられるシリーズ。
今回は、作中に登場した桜襲や、紅梅の衣装を思い起こさせる、桃色系統の美しい装丁でした。

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2004.08.15

『小説紫式部「香子の恋」』 三枝和子

香子(かおるこ)とは、三枝和子がつけた、紫式部の仮の名前です。

彼女が創り上げた『源氏物語』については、古今東西研究がなされているのに、紫式部自身については、本名も生没の年も分かっていません。
『紫式部日記』と歌集『紫式部集』から浮かび上がる女性像を、小説化したのが本書になります。

『源氏物語』といえば、複数の作者が書いたものであるという説がありますが、本書では紫式部一人が書き上げたことになっています。

どんな育ち方をして漢籍に親しんできたのか。
一台恋愛絵巻を書き上げた彼女は、どのような恋の遍歴を重ねてきたのか。
何がきっかけで『源氏物語』を書こうと思い立ったのか。
そしてあれほどの超大作が、どのように紡がれ、世に広められていったのか。

今まで思いが及ばなかった、筆者自身の人生にスポットが当てられ、とても興味深かったです。

権力争いや恋愛から一歩引いた、冷めた観察眼を持つ紫式部。
彼女の目を通して見る、藤原道長の栄華には、歴史書にはない人間味があります。

説の一つであったり、空想であったり、本書が全て真実と言うわけではありません。
しかしながら一人一人の内面を描いた本書には、学校の授業では得られない魅力があります。

清少納言=諾子(なぎこ)、道綱母=寧子(やすこ)、和泉式部=許子(もとこ)と、シリーズになっているようです。
他の作品も読み進めていこうと思います。

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2004.08.12

解夏(げげ)』 さだまさし

表題作「解夏(げげ)」を含む、短編集です。

映画とドラマ「愛し君へ」の原作、という興味から読み始めた本書。
短い分、主人公を中心に本筋が凝縮された物語になっています。

恋愛要素を強めたり、解夏という宗教的な用語を噛み砕いて扱ったり、ドラマはドラマでとてもよかったのですが、原作もまた違った魅力がありました。
ベーッチェット病の症状や怖さ、「失明することが完治」という意味が、原作を読んでやっと分かった気がします。

特に、長崎弁がとても優しかったです。
八千草薫の声となって、私の中に響いてきました。

他の3編もよかったです。

辛いことや悲しいこと、心のすれ違いなど、諦めそうになる中、もがきながら何かを掴もうとする主人公たち。
人間の利己的な面や、残酷な面もさらけ出しつつ、最後には心温まるお話ばかりでした。
方言や自然の描写も生きています。

泣きたい方におすすめの一冊です。

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2004.06.21

『奪取』 真保裕一

お札の偽造防止と言われて、一般的に思い浮かぶのは透かしでしょう。

では、1万円札の「10000」という金額表示の下に、細かい文字で「NIPPON GINKO」と書いてあるのは御存知でしょうか。
赤外線ランプにさらすと、日本銀行総裁印が浮かび上がるのは?
「ミツマタ」を主原料とした、一般には市販されていない紙が使われているのは?

普通の人は、そんな細かいことまで知る必要はないでしょう。
しかし、あなたが偽札を作ろうとしていたら...?
本書『奪取』は、そんな偽札作りに手を染めた人々の物語です。

読んでいてとにかく驚かされるのは、日本の紙幣印刷技術です。
3種類の印刷方法を駆使し、世界でトップクラスの偽造防止を施しています。
まともに読んだら眠くなりそうな、それらのウンチクが、物語を通して自然と頭に入ってきます。

それら一つ一つの難題を、いかにして克服していくのか。
その紆余曲折がメインとなっていきます。

また、彼らは事情があって、偽札作りに手を染めていきます。
のんびりと研究にいそしんでいられる身分ではないのです。
期限までに偽札が完成しなかった場合、彼らにとって重大な危機が訪れることになります。

タイムリミットまでに完成できるのか?
手に汗握る展開が待っています。

そして偽札作りは高度な技術が必要です。
それぞれのジャンルに特化した人々の協力で完成するのです。
その人間模様も一つの魅力となっています。

かなり分厚い本ですが、最後まで飽きることなく読みきることができます。
偽札作りという犯罪のお話でありながら、読後感がとてもさわやかです。

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2004.06.04

『わたしのおべんとう』 スギヤマカナヨ

スギヤマカナヨ作の『わたしのおべんとう』。
以前ご紹介した『ぼくのおべんとう』と対になった絵本です。

まず、表紙のデザインがお揃いになっています。
ピンクのギンガムチェックで包まれた、お弁当箱に見立てた装丁。
"ぼく"は水色のギンガムチェックになっていました。

見開きいっぱいに描かれたおべんとうを、一つ一つ平らげていくというストーリーも一緒。
途中で"ぼく"と"わたし"が、唐揚げとミートボールを交換するという、2冊がシンクロするシーンもあります。

苦手な食材を好物とあわせて食べるシーンは、好き嫌いの多い子供の心に響くかも?

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2004.04.22

『ぼくのおべんとう』 スギヤマカナヨ

スギヤマカナヨ作の絵本『ぼくのおべんとう』です。

表紙がお弁当箱を布(ランチョンマット?)で包んだデザインになっています。
その布を解いて、お弁当箱を開けてみると...という形で物語が進んでいきます。

もちろん最後は「ごちそうさまー。」でおしまい。とってもよくできた構成です。

見開きいっぱいのお弁当の美味しそうなこと。
お友達とおかずを交換しながら楽しく食べる、ワクワクした気持ちが伝わってきます。

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【2004.06.04 追記】
『わたしのおべんとう』読了しました。

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2004.01.22

『鷲は舞い降りた』 ジャック・ヒギンズ

ふと途方もないことを思いついては、すぐに忘れるヒトラー。彼が会議中にふと思いついたことがきっかけで、事件は始まります。

「ドイツの軍情報局(アプヴェール)の能力なら、チャーチルを拉致してくることができるはずだ」

いつものように忘れるとは思いつつも、アプヴェールは念のため、チャーチル誘拐の実行可能性を調べ始めました。
折りしもイギリスのスパイ、ジョウアナ・グレイからチャーチルの情報がもたらされます。チャーチルがお忍びで、彼女の住む村に滞在する予定だというのです。机上の空論だったチャーチル誘拐が現実味を帯び、ついに実行計画が完成します。

イギリスに潜入するには、レーダーに探知されないよう、低空飛行で接近した上に、落下傘で降下するしかありません。そこでクルト・シュタイナ中佐率いる落下傘部隊が、実行部隊に選ばれます。

物語はジャック・ヒギンズが取材中に、この計画を知ることから始まります。そして彼が調べたことを元に、文章化したという形式をとっています。

この本は事件にかかわる人、特にドイツ側の関係者の事情を深く描いています。
ジョウアナ・グレイがいかにしてイギリスに住み、ドイツのスパイとなったのか。
飛行機や船の操縦士たちには、いかなるドラマがあったのか。
そして、実行部隊のシュタイナ中佐は、なぜこの計画に参加しなければならないのか。

このように、一人一人のエピソードが、詳しく描かれているので、多数の登場人物に感情移入がしやすくなっています。
そして彼らが困難に巻き込まれていくにつれ、一緒に胸を痛めてしまいます。
ドイツ軍は冷酷非情で悪役、というのが定番ですが、ドイツ人もまた人間であり、一人一人には辛い事情があるんだと感じられる物語です。

発売当初は一部のエピソードが割愛されて出版されていたようです。今はその部分も補った完全版が出版されていますので、そちらをお薦めします。

↓↓↓以下、ネタバレあります↓↓↓
チャーチルを目の前にして、シュタイナは何故、引き金を引くのをためらったのでしょう。
シュタイナ自身が口にしたように、任務が意に反することだったからでしょうか。ハリイ・ケインが言うように、母方のアメリカ人の血がそうさせたのでしょうか。途中、大いなる計画の変更があったとはいえ、最終目的であるチャーチル抹殺が、今まさに成功しようとしていることに、現実ではないような気持ちになったのでしょうか。それともヴェリカ神父が示唆したように、首相は偽者であり、微かでも違和感を感じたからなのでしょうか。
いずれにしても彼はためらい、任務を遂行すること亡くなってしまいました。それぞれに事情を抱えながら、辛く厳しい任務にあたり、やっと目の前まで来たのに亡くなってしまった。しかも彼は偽者でした。それが非情で、また切なく、戦争の空しさを感じさせられました。

↑↑↑ネタバレ、終わり↑↑↑

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2004.01.14

『ダイスをころがせ!』 真保裕一

真保裕一は、業界を描くのがとても上手です。
業界のプロたちではなく、その世界に無関係の、素人を描いているからでしょう。
登場人物と一緒に、一から学んでいけるので、読み終わる頃には知識がつき、いっぱしの業界人のような気分に浸ることができます。
この『ダイスをころがせ!』も、全くの素人集団が、選挙に出馬するお話です。

主人公の駒井健一郎は、大手商社を辞め、職探しをしています。
妻が子供を連れて実家へ帰ってしまったので、早く新しい仕事を見つけなければいけません。
そんな中、高校時代の友人、天知達彦に出会いました。
彼は、国政選挙に出馬すると言い出します。
しかも、健一郎に秘書として手伝って欲しいと言うのです。

達彦は新聞社に勤めていましたが、政治とは関係のない部署に所属していました。
つまり、政治には素人なのです。
親戚に政界へのつてがあるわけでもなく、政党の公認を受けるわけでもありません。
無謀でとても勝てる見込みがあるとは思えません。

一度は断った健一郎ですが、自分の退職する原因となった公共事業に、達彦が関わっていたことが発覚します。
しかも達彦も何者かに踊らされただけで、事件の背後には、糸を引く何者かが隠れているようです。
出馬によってその闇を明らかにするという達彦を、健一郎は手伝うことになります。

挙前の活動から、立候補の手続きなど、覚えているようで実は知らない、さまざまな仕組みを、主人公たちと自然と学ぶことができました。
朝の駅前演説も勝手気ままにやれるのではなく、お金を払い、毎月更新手続きを踏んだ上で行われていると、この本を読んではじめて知りました。
正直うっとうしい演説ですが、そういう苦労を知ると、耳を傾けてあげようかという気になります。
営業マン、新聞記者としての経験を生かし、素人ながらも、彼らなりに活動していきます。
政党有利の制度の中、妨害にもめげずに活動していく様子を読んでいると、ボランティアの一員になって応援したくなっていきます。

一服の清涼剤になっているのが、健一郎の娘、めぐみです。
健一郎の退職を機に、妻はめぐみを連れて実家へ帰っています。
その上、選挙を通して2人は別居することになりました。
この緊迫した夫婦関係の中、めぐみのけなげな姿は、涙が出るほど愛らしいです。
子はかすがい、ですね。

一つ不満をあげるとすると、サキを巡る健一郎と達彦の確執でしょうか。
健一郎はサキと一時期付き合っていたけれど、受験を理由にサキから振られたということ。
その後、サキは達彦と付き合ったということしか明らかにされていません。
それが同級生も気遣うほどの、2人の絶縁の理由になるでしょうか。
達彦が略奪愛をしたとか、もっと根拠となる事件があってもいいのではないでしょうか。
全編通じて引っ張る確執でありながら、その発端があいまいで、共感しづらかったです。

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2004.01.06

『もものかんづめ』 さくらももこ

この本は言わずと知れた、漫画『ちびまる子ちゃん』の作者・さくらももこのエッセイです。

さくらももこの話術は天才的だと思います。
思わず「そうそう」と頷いてしまう身近な話題も、「ええっ」と思ってしまう突飛な話題も、彼女に語らせると抱腹絶倒の物語に仕上がるのです。
漫画でも語り口の上手さは分かりますが、文字だけで伝えるエッセイとなると、更にその能力が凝縮され、爆発している感があります。
そして、彼女の話題にはタブーがありません。
乙女であれば隠したくなる水虫歴や、祖父の死にまつわる本音など、何でもエッセイのネタにしてしまいます。
そんな飾らないエッセイだから、多くの人々に読まれる大ベストセラーになったのでしょう。

さくらももこを知る漫画家や作家のエッセイに、素のさくらももこについて語られたものがあります。
素の彼女も、やはりかわいらしい静岡弁で、面白い話を喋り倒しているようです。
ぜひ聞いてみたいものですね。

このエッセイを読むときの注意点は、自分の部屋に入り、独りで読むこと。
電車などで読もうものなら、つい吹き出して、恥ずかしい思いをしてしまいますよ。

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2003.12.23

『海は涸いていた』 白川道

都内にクラブやレストランなどの営業店舗を拡張している、伊勢商事。
その社長を勤める伊勢孝昭は、別の名前と秘められた過去を持っていました。
彼の本名は芳賀哲郎。
実父は暴力を振るう最低の男で、再婚した優しい継父と暮らした時期が、彼の唯一幸せな時間でした。

しかし継父も、妹が生まれてすぐ亡くなり、残された母も実家の火事で死亡してしまいます。
両親を失った哲郎は、養護施設「あじさい園」で育つことになります。
そこで仲良くなったのが、千佳子と慎二でした。

彼の過去が次第に明らかになっていくにつれ、会社・伊勢商事の正体も分かっていきます。
健全に見えるこの会社は、裏では東友会・佐々木組とつながっているのです。
その暴力団絡みの闘争と、過去が絡み合い、ついに新たな事件が起きてしまいます。

慎二と千佳子、昔の恋人・今日子、そして大切な妹を守るため、哲郎はある行動にでるのです...。

哲郎は本来、まっとうな生き方をできた男です。
しかしいろいろな流れに翻弄され、やくざの世界に身をおいてしまいます。
やくざの世界にかかわる経緯が明らかになるにつれ、彼の優しさが明らかになることでしょう。
やくざに向かない気性でやくざの世界を生きる、彼の切ない生き方に、ぐっと来るお話です。

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2003.12.20

『だれも知らない小さな国』 佐藤さとる

みなさんはコロボックルをご存知でしょうか?
【コロボックル】とはアイヌ語で【ふきの葉の下の人】という意味です。
身長は3cmほど。
すばしっこくって並の人間では姿を見ることができません。
喋るのも速いので、彼らの話は「ルルルルル」としか聞こえません。

こんな小人を見かけたら、面白がって見世物にしようとする大人が必ずいるものです。
だからコロボックルは人間の前には姿を現しません。
人間に捕まりそうな危険を感じたら、目をつぶしたり、耳をふさいだりする知恵も持っているのです。

これは、そんなコロボックルの言い伝えを少年時代に聞いた、せいたかさんのお話です。

よい児童書は、大人が読んでももちろん面白いもの。
コロボックルの可愛らしさや、せいたかさんの心理描写など、何度読み返しても楽しい本です。
【コロボックル物語】シリーズ、第一弾をまずは読んでみて欲しいです。

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『ホワイトアウト』 真保裕一

「寝る前に少し本を読んでから眠ろう」
そう思って手に取ったのが、この『ホワイトアウト』でした。
ところが、気づいた時には夜は明け、本も読み終えてしまいました。
作品に思いっきりハマってしまい、寝るのを忘れてしまったのです。

舞台は凍てつく雪に覆われた、奥遠和のダム。
主人公の富樫は、友人・吉岡と共に、吹雪の中、遭難者を捜索しに出かけます。
途中吉岡が骨折したため、彼と遭難者を残し、主人公は救助を呼びにダムへと引き返します。
ところが富樫は道を誤り、磁石もなくし、ダムへ戻ったのは一夜が明けてからでした。

連絡を受けた救助隊が、急いで吉岡たちを救出に向かったものの、彼が生きてもどることはありませんでした...。

そして今日、吉岡の婚約者だった女性が、奥遠和を訪れます。
折りしも、平穏なはずの奥遠和が、突如としてテロリストたちに占領されます。
人質はダムの所員たち。そして発電所。
24時間以内に50億を用意しなければ、発電所と人質の命はない、とテロリストたちは宣言します。
本当に発電所を爆破されれば、ダムの水が一気に流れ出し、下流の街が飲み込まれてしまうのです。

人質になることを免れた富樫が、仲間を、そして吉岡の婚約者・千晶を救うために一人立ち上がる...。

 『ダイ・ハード』のようなハードアクション、そして、涙。
映画も原作を忠実に再現していて、よかったです。

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