カテゴリー「おすすめ本【あ行】」の記事

2008.08.16

『流れ行く者』 上橋菜穂子

守り人シリーズの短編集。
幼いバルサとタンダのエピソードに、微笑ましかったり、じーんとさせられたりしました。

「浮き籾」は、バルサとタンだのやりとりが、微笑ましかったです。
よき働き手ではないかもしれないけれど、タンダは幼い頃から優しかったんだなぁ、とほのぼのさせられました。

「ラフラ<賭事師>」では、その道を極めた人間の、深さが光るストーリーでした。
バルサには珍しい、人との交流も暖かかったです。

「流れ行く者」は、表題作になるだけのことがある、一番読み応えのある作品でした。

まだ自分の感情を制御しきれない、若いバルサの血気とか。
戦いたくないのに、倒さなければならない、悲痛さとか。

毎回のことですが、決別、裏切りへの変化など、心の動きの描写が深く、じんときます。

また本編を読みたくなりました。

この本について詳しく見る。
ブクログでチェック。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.08.08

『鏡の向こうに落ちてみよう』 有栖川有栖

有栖川有栖のエッセイ集。

趣旨に賛同できない場合などは、断るにしても、基本的にテーマを問わず、エッセイは引き受けているのだとか。

数多く書いているせいか、本書の中だけでも内容が重複していたり、『正しく時代に遅れるために』で似たような文章を読んだな、と感じたりはしますが、やはり文章は上手いと思います。

塀と溝との間の、狭い隙間を表す言葉は何か、とか。
昔の本についていた、著者検印の紙。
その成り立ちと、作られ方など、作家として、常にアンテナを張っているからゆえのネタも、ためになるし。

本に関する話題も多く、読みたい本をいくつかピックアップすることが出来ました。

また、有栖川事件に関するコメントなど、ちょっと野次馬的な内容も、興味深いですね。
ニュースを見たときに、私も筆者のことを連想した口なので。

凄く面白いとか、ではないんですが、得られる情報のあるエッセイだと思います。

この本について詳しく見る。
ブクログでチェック。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.06.26

『ダーリンは外国人 with BABY』 小栗左多里&トニー・ラズロ

『ダーリンは外国人』『ダーリンは外国人2』と、仲良くやってきたお二人に、ついに待望のお子様が。

妊娠から出産、そして育児に関するエッセイです。

思わず噴き出してしまうシーンもありましたが、それほど笑いに傾倒した内容ではありません。
むしろ育児経験者として共感すること、考えさせられることが多々あるエッセイでした。
笑いを求めていると、ちょっと期待はずれになるかも。

エッセイのベースは、奥さんである小栗左多里ですが、所々にトニーのページもあります。
日本人ではない、という育ちの違いだけでなく、理想高きトニーと、小栗左多里の子育て観の違いが、あちこちに見受けられて、興味深かったです。

おしどり夫婦の二人も、子供が生まれ、余裕がなくなったことで、喧嘩することが増えてきたのだとか。

「マイ時間」が激減します。そして子どもの動きに合わせた「途切れ途切れ生活」が始まるぞ。

というトニーの一言には、経験者として大きく頷くところがありました。

巻末には、同じく「漫画家&ダーリンは外国人」カップルの、かわかみじゅんこ&フィリップ夫妻との座談会も。
玖保キリコも、「漫画家&ダーリンは外国人」カップルですよね。
漫画家の感性は、海外の方とあいやすい!?
(いやいや、サンプルが少なすぎるか・・・。)

玖保キリコの『キリコ・ロンドン』は、より生活密着型の育児エッセイで、こちらも面白いです。

この本について詳しく見る。
ブクログでチェック。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.06.25

『レインツリーの国』 有川浩

じんわりとして、読後感の良い作品。

ずっと心に引っかかっていた、ライトノベル『フェアリーゲーム』のラストシーン。
結末について書いていたブログに共感し、書き手のひとみに、思わずメールを送った向坂でしたが・・・というお話。

嫌な人も出てきたりはするのですが、主要人物は、有川浩らしい、とてもいい人ばかりです。
最初は中身がなさそうで、不快感のあったミサコも、実は捌けた清々しさがありましたし。

お互い過去をさらけ出し、傷ついて、傷つけられてもなお、理解しあおうとする。
甘酸っぱさあり、切なさありの一冊でした。

向坂はとてもいい人だ、と思います。
「健聴者には分からない」と言っていたら、差し出される手はなくなると思うし。

何事も、誰しも相手の痛みを、そのまま体感することは出来ない。
だからこそ、気持ちを思いやり、いたわるのではないでしょうか。

「経験したことのないあなたには、分からない」という文句は、すべてを否定します。
そう言っている本人も、相手と同じ経験をし、痛みを完全に理解することはですから。
それを言い出したら、人と人とは理解しあえない、と思います。

同著『図書館内乱』に、本書『レインツリーの国』が登場するそう。
『図書館戦争』シリーズは、興味がありながら読めてなかったものなので、機会があったら探してみようと思います。

この本について詳しく見る。
ブクログでチェック。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.06.20

『トニー流 幸せを栽培する方法』 トニー・ラズロ著/小栗左多里画

『ダーリンは外国人』『ダーリンは外国人2』『ダーリンの頭ン中 英語と語学』で触れられている、トニーの思考に興味津々だった私。
今回のような「トニー自身が語る」本は、待っていましたという感じです。

語学好きなトニーらしく、引用されていることわざや格言の言語は、多岐に渡ります。
特定の物を好んで、多くなりすぎないように。
また特定の物を避けて、少なくなりすぎないように。
なるべく多くの種類に関して、満遍なくほどほどに、を目指しているというトニー。

納豆がいいといわれれば、納豆を大量に買い込む。
というようなやり方に疑問を感じている私には、とても共感できる考え方でした。

「嫌い」という言葉を使わず、「したいこと・できること・やるべきこと」を見つけていく。
「自分が良いと思うことが、相手にとっても良いこととは限らない」という観点を持つ。

突飛なことではなく、当たり前のことなんですが、なかなか出来てなくて、はっと気づかされる。
そんな内容でした。

爆笑を求めている方には、あまりですが、トニーの思考回路に興味がある方には、おすすめです。

イラストは、奥さんの小栗左多里。
ページの下部にある、トニーのぱらぱら漫画が、可愛かったです。

この本について詳しく見る。
ブクログでチェック。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.06.08

『加筆完全版 宣戦布告』麻生幾

日本の国防の問題点を描き出した作品。
文庫化に際し、その時点で最新の情報を盛り込んだ、「加筆完全版」です。

難しい部分もありましたけれど、最後まで目の話せない、面白い作品でした。

敦賀半島沖に、謎の潜水艦が漂着。
乗組員は、北朝鮮の特殊部隊で、原子力発電所の詳しい内部資料を持っていたという。
武装した彼らに、警察は、自衛隊は、そして日本は、立ち向かう術を持っているのか!?

ジャーナリストだけあって、部署名や、武器の名称など、細かい部分まで描いています。
警察や自衛隊の行動の、法的根拠を議論させるにも、該当する法律と条文を、事細かに引用しています。
そのため、一語一句理解しようとすると、遅々として進まなくなるので、流れの中で掴むようにしました。

武装し、不法に入国している敵に対して、ここまで日本は対策が打てないのかと、愕然とするものがありました。

世界でトップクラスの軍事費をつぎ込み、装備は充実しているかもしれませんが、その自衛隊を動かすことが出来ないのです。

陣営を貼ろうにも、法的根拠がないので、土地を借りられない。
作戦に必要な、壊れた橋を直そうにも、やはり法的根拠がなく出来ない。
こちらが即死する破壊力を持った武器で、襲い掛かられそうになっているというのに、撃ち返すことは出来ない。

そもそも実践を行っていないので、命を賭けた、本物の戦闘の中で、冷静に実力を発揮できない。

政治家も官僚も、自分たちの保身を考え、適切な作戦と命令を出すことができない。
あまりに酷い状況ですが、憲法第9条と自衛隊という矛盾を抱えている以上、現実なのだろうと思います。

結局、アメリカ頼みなのか、という空しさと、アメリカの驚異が、今もこんなに北朝鮮に有効であるか、という疑問を感じました。

映画化されているようなので、読了後に映像を見ると、更に理解が深められそうな気がしました。

この本について詳しく見る《上》/《下》
ブクログでチェック。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.05.21

『顔のない敵』 石持浅海

対人地雷をテーマにした、異色のミステリ短編集。
ほかに、初めて活字になったという作品「暗い箱の中で」も納められています。

対人地雷を作る側の視点も、描かれています。
地雷除去活動には、活動資金が必要なことも、描かれています。
そして、世界から全ての兵器がなくなるなんてことは不可能だ、とも。

地雷除去活動をしている人がいます、立派ですね、とか。
地雷で傷を負った子供がいます、助けてあげたいですね、とか。

ドキュメンタリー風に、もしくは道徳的に描き出していくのではなく、いろんな面を見せながら、ミステリの一部として使っています。

陸上自衛隊の地雷除去技術は、胸をはれるレベルだ

いつか自衛隊とNGOが協力し合って、対人地雷のない土地を増やすことが出来るのだろうか。

登場人物を介して、石持浅海の対人地雷問題への意識が、しっかりと語られています。

詳しいことは「あとがき」にありますが、発表した時期の異なる作品が収められており、その時々の対人地雷に対する、筆者の掘り下げ方を感じました。

他の作品に比べると、ミステリとしての完成度は、低いように思います。
突っ込みたくなるような、荒さがありました。

けれども、それを補う対人地雷への思いがあり、読んで良かったと思います。

この本について詳しく見る
ブクログでチェック。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.05.14

『神の守り人 帰還編』 上橋菜穂子

守り人(もりびと)シリーズ。
『神の守り人 来訪編』の続編です。
隠れていた対立や思惑が、一気に噴き出して、濁流のように流れ出す展開。
目が離せなくて、思わず一気に読んでしまいました。

タルハマヤ<おそろしき神>を呼び出せる、チャマウ<神を招くもの>となった、アスラ。
サーダ・タルハマヤ<神とひとつになりし者>となってしまうのか。

封印されていた壮絶な神の力を、「善政のために」使うことは、良い使い方なのか。
それとも封印しておくために、タルの民を虐げ続ける政治は、正しいのか。
とても難しい命題が描かれています。

用心棒として生きてきたバルサだからこそ、たとえ訳があろうとも、多くの人を殺した苦しみがいかなるものか、を語ることが出来るのでしょう。

妹を想うチキサの気持ち。
それを知ったアスラの決意には、じんとしてしまいました。

児童書なので、とても読みやすいけれども、深遠なテーマを描いているシリーズです。

【関連記事】
『精霊の守り人』
『闇の守り人』
『夢の守り人』
『虚空の旅人』
『神の守り人 来訪編』

この本について詳しく見る
ブクログでチェック。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

『神の守り人 来訪編』 上橋菜穂子

守り人(もりびと)シリーズ。

タンダに付き合って、都西街道の<草市>へと出かけていった、女用心棒のバルサ。
そこで痩せこけた様子の、チキサとアスラの、見目麗しい兄妹を見かけます。

虐げられているような二人に、自分の過去を重ねるバルサ。
そして、不思議な力を持つアスラを、連れて逃げることなり・・・というお話。

バルサは相変わらず強いけれど、最初のころのような、孤高の人という感じは和らいできました。
シリーズを通してきた経験が、バルサに独りで生きることだけでなく、大事な人たちのことを思う心を育てたのでしょう。

虐げられた民の理由とは。
歴史の表舞台から、秘められた過去とは。
チキサとアスラの運命も気になるし、バルサとタンダの関係も気になるところ。

タイトルからして続き物だとは分かっていましたが、こんな気になるところで終わるとは! 終わり方にビックリしました。
上下巻にしてもいいくらい。
すぐに続きを読み始めようと思います。

【関連記事】
『精霊の守り人』
『闇の守り人』
『夢の守り人』
『虚空の旅人』

この本について詳しく見る
ブクログでチェック。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.05.11

『阪急電車』 有川浩

装丁も可愛らしいし、心温まる物語でした。

阪急電車を舞台に、繰り広げられる物語。
宝塚駅を出発した今津線は、西宮北口駅で折り返し、再び宝塚駅へと戻ってきます。

つらい経験に傷ついている人。
悩み、揺れ動いている人。
恋の始まりに、ドキドキしている人。

電車には見も知らぬ、さまざまな人が乗り合わせており、一駅ずつにドラマがあります。
登場人物がそれぞれ交錯しながら、物語を作っていきます。

筆者自身が住んでいるだけあって、沿線の描写はとっても細やかだし、今津線への愛情がひしひしと伝わってきます。

いいことも悪いこともありながら、最後はみんな乗り越えて、ハッピーエンド。
読後感のよい、楽しい作品でした。

『クジラの彼』もそうでしたが、この方は自衛隊のベタ甘ラブロマを得意としているそう。
今回も自衛隊の話題は出ましたが、自衛隊員は登場せず、より一般ウケする作品だったなと思います。

この本について詳しく見る
ブクログでチェック。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2008.05.01

『ゴールデンスランバー』 伊坂幸太郎

2008年本屋大賞。

仙台入りした首相が、暗殺された!
犯人は、二年前にテレビでもてはやされた、とある宅配ドライバーだという。
メディアがあおった、青柳雅春の捜索劇の真実とは・・・。

伊坂幸太郎作品では、政治家や、世の中の思惑、強大な力というのを扱うことが多い気がします。
その世相の皮肉り具合もちょうどいい。
熱血過ぎず、かといって無気力すぎない若者も、近しい感じがします。

シニカルな描写や、ふとした鋭い視点が心地よいのです。
個人的に、ミスチルの心地よさに近いと思っています。

極々普通の人だったはずの青柳が、一人で戦えてしまうのは、冷静に考えるとおかしいです。
敵のスケールが大きすぎて、まるで「ダイハード」のよう。
ありえない絶体絶命のピンチなのに、どこか飄々とした逃げ方が、伊坂作品らしい雰囲気でした。

挿入される、学生時代の想い出話も、どこかにやっとしてしまう小気味よさがあります。

ハッピーエンドかはともかく、高圧的で、身勝手な、警察権力に、一矢報いる爽快感がありました。

裏社会との繋がりを吹聴する、偽骨折患者とか。
森の声が聞こえると嘯く、大学時代の友達・森田森吾とか。

伊坂作品には、ちょっと変人な人たちの存在感が、大きいです。
常識の型には当てはまらないけれど、その行動力と言葉には、どこか胸を打つ力があります。

作中の時勢が飛び飛びだったこと。
まとまった時間をとって読めなかったことが相まって、思ったより入り込めなかったのは残念。
面白かったけれど、すごくハマるというところまでは行かなかったです。

この本について詳しく見る
ブクログでチェック。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.04.28

『蒲公英草紙 常野物語』 恩田陸

幼い頃の日記「蒲公英草紙」を元に、峰子が振り返った、幼い日々の想い出話です。

周りを明るく照らす、輝くような、聡子様。
美しい奥様と、清隆様。
そしてなぜか意地悪をしてくる、悪戯者の廣隆様。

別世界と思っていた、槙村家の人々と触れ合いながら、峰子が過ごした思春期とは・・・。

日清戦争後と、時代設定はかなり古いのですが、古臭さはなく、独特の穏やかな空気が流れていきます。
不思議な力を持つという常野一族も、この時代設定だからこそ自然だったのではと思います。

聡子の、峰子の、仄かな恋心。
常野の人々の、不思議な力。
村は平和で、人々は優しくて、幸せに満ちた日々。

穏やかだったものが、堰を切ったように爆発するクライマックスには、涙しました。

ただ最後が、終戦で終わってしまったのは、しっくりきませんでした。
それまでの想い出話と、繋がらない感じです。

『光の帝国』も『エンド・ゲーム』も読んでいないので、今回の常野一族は、あくまで脇役の一人でしかありませんでした。
それが最後になって、急に常野の主題を持ち込んだことに、違和感があったのではないかと思います。

この本について詳しく見る
ブクログでチェック。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.04.11

『間宮兄弟』 江國香織

劇的な展開などはありませんが、なんとなく最後まで読んでいってしまう作品でした。

女性の好みも、部屋の内装も異なる、間宮兄弟。
共通の趣味を楽しみながら、母親とは離れ、二人で仲良く暮らしています。

女性と付き合ったことのない二人は、それぞれ恋をして・・・というお話。

明信と徹信は、女性の恋愛対象外で、皆が引くオタク、ということになっています。
が、物語の中の間宮兄弟は、誠実で好感が持てます。

とにかく人柄がよく、母親を大事にする姿も微笑ましいですし。
母親が二人を見る目も、やはりあたたかですし。

リアルにいたらどう感じるかは別として、二人の健気さが、全体をあったかい空気にしています。
大垣家の問題も、現実だったら酷いものですが、物語の中ではさらりと感じられます。

仕事も愛着を持っておこないますが、とにかく自分たちの時間を大切にする二人。

ゆったりと映画のビデオを観たり。
読書をしたり。
ジグソーパズルに取り組んだり。
懐かしいゲームに興じたり。

これも一つのスローライフといえるのでは。
自分ではなかなか出来ませんが、一緒に穏やかな心持ちになります。

大きな波はないけれど、穏やかにたゆたっていくストーリー。
唯一、意外だったといえば、直美の恋のラストでしょうか。

間宮兄弟の優しさに和み、全体としてあたたかい雰囲気の物語でした。

佐々木蔵之介とドランクドラゴン塚地で、映画化もされているようです。
なかなか上手いキャスティングです。

この本について詳しく見る
ブクログでチェック。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.03.14

『あなたと、どこかへ。 eight short stories』 吉田修一/角田光代/石田衣良/甘糟りり子/林望/谷村志穂/片岡義男/川上弘美

特別な不満があるわけではないけれど、なにかもやもやするような。
そんな現状が、雨が上がっていうように、晴れていく物語たちです。

8人の作家の手による、違った世界を楽しむことが出来ます。

表紙を飾る、青い車のナンバープレートには「TEANA」の文字。

裏表紙には、

日産TEANAスペシャル・サイト発信

との文章が。

これに先に気がついてしまったせいか、車にまつわる描写からは、どうしても広告的な臭いがしてしまいました。
内装への満足感とか、ドライビングの快適さとか、外装のかっこよさとか。

ただそこに目をつぶりさえすれば、さらっと読める短編集ではありました。
爽やかで、それぞれ読後感もよいです。

この本について詳しく見る。
ブクログでチェック。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.03.12

『水の迷宮』 石持浅海

次々と起こる事件と、美しい水族館の描写。
謎解きミステリとして、最後まで楽しませてくれました。

今でこそお客さんでにぎわう、羽田国際環境水族館。
このように首都圏の人気スポットへと成長するまでには、苦難の道のりがありました。

3年前の残業中に、命を落とした片山。
その命日に、片山が亡くなった日のトラブルをなぞるかのような、開放系ジオラマ水槽への襲撃が行われます。

脅迫犯の正体とは?
そして、3年前の片山の死との関わりは? というお話。

職員が汚染物質を発見すると、すぐに犯人から送られてくるメール。
緊迫した展開に、どうなってしまうのか、どきどきしながらページを繰ってしまいます。

そして間に挟まれる、こだわりの水槽や、イルカショーの描写。
職員たちの、水族館を愛する気持ちが、ひしひしと伝わってきます。
観客を飽きさせない仕掛けが楽しそうで、実際にこんな場所があったらいいなと、思わせられます。

特に、タイトルにもなった水の迷宮の描写は美しく、うっとりしてしまいました。

やや難をつけるとすれば、職員の描き分けが曖昧だったところでしょうか。
なんとか分かる程度にはなっているものの、Who done itの推理に耐えうるほどは、頭に入ってきませんでした。
どのときに、誰が何をしていたと推理されても、いまひとつ把握しきれていませんでした。

それから、事件の落としどころは、現実的には賛同しがたかったですね。
一人、もしくは二人の命が関わっていることなのですから。

気になる点は多少あるものの、ミステリとしては楽しめた一冊です。

最後に、本筋とは関係ありませんが、気になったことが。

探偵役の深澤は、座間味島の阿真ビーチを好んだという設定になっています。
深澤が、『月の扉』『心臓と左手 座間味くんの推理』の「座間味くん」なのでしょうか。

この本について詳しく見る。
ブクログでチェック。

【2008.3.29 追記】
『心臓と左手 座間味くんの推理』を再読。
「地下のビール工場」に、

私はデジタルカメラを水中に持ち込んだパイオニアですよ。

という記述がありますね。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.03.10

『シャーロック・ホームズと賢者の石』 五十嵐貴久

言わずと知れた名探偵、シャーロック・ホームズのパスティーシュ。

いかにもホームズらしい、推理。
ワトソンらしい、驚き方。
とても良く出来ている文章で、楽しかったです。

聖典であるオリジナルはもちろん、パスティーシュで読んでも楽しめる。
このコンビの魅力は、時代を超えて続いていますね。

本作は、ホームズとワトソンが、それらしい事件に遭遇し、解決する、というだけではありません。

モリアーティ教授との死闘に現れる、「バリツ」の真意を紐解いていたり。
さりげなく現れていた人物が、実は他の著名人だったとか。
ホームズだけでなく、二重のパスティーシュとなっていたり。

新たな解釈やユーモアがを盛り込み、更に一味加えてあるのが、面白いところです。

特に、冒頭の「彼が死んだ理由 ライヘンバッハの真実」は、面白い解釈で、笑わせてもらいました。
さらりと読めて、楽しい一冊。

また巻末には、日暮雅道の「ホームズ・パロディ パスティーシュの華麗なる世界」を収録。
更に読んでみたい本が増えました。

この本について詳しく見る。
ブクログでチェック。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.02.27

『Rのつく月には気をつけよう』 石持浅海

素敵な料理とお酒、そして明かされる真実。
お洒落で、楽しくて、充実した短編集です。

頭脳明晰で、料理担当の長江。
オヤジギャグが得意で、お酒担当の熊井。
そして大酒のみで、主人公の夏美。

学生時代からの、仲良し呑み仲間3人組は、時折ゲストを招いて輪を広げています。

そのゲストとの雑談の中から、ふと現れてくる「真実」とは・・・?

毎回、選び抜かれた肴と酒の描写が、とっても美味しそうでした。
普段お酒を飲まない私でも、「同じ組み合わせを味わってみたい!」と思わせられる、至極の描写です。

この本を読むきっかけとなった、1日1冊読書日記さまのレビューでも、

なんといってもこの作品の魅力はお酒とお料理ではないでしょうか。

と、垂涎ものの描写を褒めていらっしゃいました。

お話にまつわるお酒をモチーフにした、章扉や装丁もスタイリッシュ。

そして最後のオチには、びっくり。
読み返してみると、分かる人には分かるようになっていましたが、すっかり騙されましたw

雑談は、結局どれも恋愛話に行き着きます。
けれども、ミステリ寄りの話題あり、どっぷり恋愛ど真ん中の話題ありだったので、それほど「恋愛話どっぷり」という感じは受けませんでした。

軽妙で、ちょっぴりじんとくる話もあって、とても楽しい一冊でした。

↓↓↓以下、ネタバレあります↓↓↓
読み返してみると、最初に「熊井渚」と紹介されているんですよね。
その後、わざとミスディレクションしているので、気がつく人は気がついていたはずですね。

↑↑↑ネタバレ、終わり↑↑↑

この本について詳しく見る。
ブクログでチェック。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.02.15

『木曜組曲』 恩田陸

女流作家の時子が、毒物を飲んで亡くなってから、4年。
遺書があったことから、警察は自殺と判断。
時子が亡くなった木曜日を挟んだ3日間、関係者が毎年、偲ぶ宴を催していたのでした。

事件の関係者が集まり、回想。
すると当時は分からなかった、とある真実が浮かび上がっていく・・・。

今回も恩田陸、お得意のパターンです。
次々に新事実が発覚するので面白く、最後まで一気に読んでしまいました。

異母姉妹や、姪。
複雑な血縁関係を、前面に押し出されると、時代錯誤を感じますが、そのようなことはなく。
重松家の血は、あくまで「物書き」という性格付けのみに使われていました。

「フジシロチヒロ」の行いが、ちょっぴり怖くはありましたが、参加者に害意が感じられないので、すごく怖いというほどでもなく。
成熟し、仕事も充実している女たちの、大人のやりとりと、お洒落な雰囲気漂う作品でした。

真実と思ったものが、またひっくり返される面白さ。
ちょっとだけぞくっとする終わり方です。

この本について詳しく見る。
ブクログでチェック。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2008.02.14

『毒入りチョコレート事件』 アントニイ・バークリー

有名な古典作品ですが、やっと手にしました。
6者6様の推理合戦が、とても楽しかったです。

警察がお手上げのこの事件に、犯罪研究会のメンバーが、非公式な捜査を行うという物語です。

警察や事件関係者から事情を訊き、その場で解決してみせるアームティアディテクティヴとは、一味違っています。
なぜなら犯罪研究会のメンバーは、話を聞くだけでは留まらず、自ら聞き込みをしたり、証拠集めに奔走するからです。

6人のメンバーはばらばらに行動し、一晩につき一人が、自分の推理を発表していきます。
机上の空論、ただ推理遊びのみを楽しんでいるように思える人物もいますが、おおむねが真剣に犯人探しをしています。

おのおのが、それなりの論拠を持って、自説を展開していくので、6パターンの推理を楽しむことができます。

最初は、いきなり名前と職業を羅列されるので、個性が分かりにくかったです。
会合のやり取りを読んでいくうちに、強気な者、自信家な者、控えめな者と、性格がわかってきました。

とはいえ、彼らは何の権限も経験も持たない、調査の素人です。
偽の情報をつかまされたり、証拠の真偽を正しくつかめないこともしばしば。

普通は、探偵役が述べる証拠と証言は絶対であり、それが間違いであることはほとんどありません。
しかし現実の聞き込みとは、そんなに確実なものではないでしょう。

そういう意味では、誤りがあったり、他のメンバーからひっくり返されたりする彼らの調査は、リアルで面白いです。

「限定型と開放型」という表現を用いて、クローズドサークルの話題を取り上げていたり。
推理小説ファンを楽しませてくれるお話でした。

フェアな推理小説としては、最後の最後に、ぽっと出の人物が犯人ということはないだろう、と考えながら読んできました。
そういう意味では上手いラストで、余韻もある結末でした。

ただ、職業や学歴だけを持って、性格を断定する辺りは、論理的でないと感じました。
職業や学歴で、おおむねのグループ化はできるかもしれません。
しかし実際には、個々人によって、そのグループと異なる性格や能力を持つのですから、一人ひとりについて確認する必要があります。
これは作品の描かれた、時代背景によるものなのかもしれません。

この本について詳しく見る。
ブクログでチェック。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.02.06

『月の扉』 石持浅海

続編の『心臓と左手 座間味くんの推理』で仄めかされていた、ハイジャック事件の真相が全て明らかに。
すっきりしたし、推理を楽しく読むことができました。

『心臓と左手 座間味くんの推理』とは、"座間味くん"のキャラクターの印象が、少し変わりました。

ハイジャック犯に要求されているからとはいえ、推理力をひけらかすような、賢しらな感じがします。

自分の彼女の安全が第一で、他人は二の次というのも、ひっかかるものが。
確かにストレートで、物事の優先順位を、はっきりと定められている人間らしいといえばらしいけれど、冷酷にも思えます。

自分の大事な人のことも大事だけど、目の前の人も助けたい。
そういう欲張りな感情を持つほうが、人間らしいというか。

という違和感はあったものの、期待通りの面白さでした。

ごく普通の、善良な市民だった3人が、ハイジャックという難題をどうこなしていくのか。
ハイジャック中に起きた、トイレでの不可解な死は、誰が、何のために、どうやって起こしたものなのか。

座間味くんと真壁の、推理の鞘当てなど、ミステリとして魅力的なやりとりと謎。
人物の区別もはっきりとしていて、すっと世界に入り込ませる文章力もあります。

ロジカルな推理がメインでありながら、物語としても読みやすい。
珍しい魅力を持った作家だと思います。

一つだけ引っかかったのは、人質が九ヶ月から一歳半の子供たちだったことです。

大人が抱えていたら、暴れることすらできないでしょう。犯人としては、確保していても抵抗される心配はありません。

とありますが、実際は逆だと思います。
乳幼児は、不快なことがあれば、思いっきり泣き、暴れます。
「脅し」というものを理解できるのは、もっと年が上の子供たちです。

↓↓↓以下、ネタバレあります↓↓↓
殺意はなかったけれど、悪意を持って、怪我をすればいいと思って、仕掛けた。
杉原麻里は、そのことを罪に問われなかったのでしょうか。
続編では、変わらずスターとして描かれていたような気がするのですが、記憶違いでしょうか。

↑↑↑ネタバレ、終わり↑↑↑

この本について詳しく見る。
ブクログでチェック。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.01.24

『正しく時代に遅れるために』 有栖川有栖

有栖川有栖のエッセイ集。

最初の章は、身近な出来事を書いた、いわゆるエッセイの「身辺雑記」。
作家としての考え方あり、「六段階の距離」のような、ちょっと楽しい小ネタありで、面白かったです。

「映画はミステリー」は、映画に元々あまり興味がなかったこともあり、ちょっと長く感じました。
こう誉めそやされているのを続けて読むと、広告的な臭いも感じてしまいますし。
(実際、最後には、広告文の収録もある。)

「エラリー・クイーンから有栖川有栖まで」も、本好きには興味深い章。
「アリスのブックレビュー」は、有名な作家・作品が多くあげられていました。
そういえば読み逃していたな、と思う作品もあり、改めて探してみようという気持ちになりました。

もちろん知らなかった作品もありますし、製作秘話が載っていたり。
読みたい本を、たくさん見つけさせてくれるコーナーでした。
前職は、書店のバイヤーだったのですね。

「選評」はなかなか目にする機会が少ないし、読んでもさらりと流してしまいがち。
こんな風にじっくり読んだことは初めてです。
現在、実際にデビューしている名前もあり、応募作の評を読めるのは貴重な体験でした。

「惜別」は、追悼文が中心。
あとがきでも触れられていますが、特に鮎川哲也への追悼文が数多く納められています。
あちこちから依頼され、それぞれに心をこめて書いた文章たちだとは思いますが、こうまとめて読むと、読んでいる方も痛ましくなりました。

とにかく子供の頃から本格推理が好きで、このジャンルを認知してもらうために、またその裾野の広がりを、一過性のブームで終わらせないために、作品を発表するという形だけでなく、さまざまな方法で努力しているのだなと分かりました。

それから大路浩実の装丁が、とてもお洒落です。
章題がフランス語ゆえのデザインと思われますが、スタイリッシュで素敵でした。
「作家が愛した装丁家」として、本人が作中でも、大路浩実について語っています。

この本について詳しく見る。
ブクログでチェック。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.01.21

『心臓と左手 座間味くんの推理』 石持浅海

『このミステリーがすごい! 2008年版』、国内第18位。
ランキングは低いですが、面白そうだったので探してみました。

過去の事件で知り合った、被害者の"座間味くん"と、大迫警視。
なんとなく気の合う二人は、時々待ち合わせては、食事をします。

その席で、大迫軽視は、警察的には「解決済み」となった事件について、披露。
それを聞いた座間味くんが、新たな真実を言い当てるという、短編集です。

明快な推理と、座間味くんの爽やかさがいいですね。
テンポよく、さらりと読めて楽しいです。

大迫警視の方も、肩肘張らず、リラックスして接しています。
お互いが尊敬の念を持って、対等にやりとりしているので、雰囲気がいいんですよね。

毎回、違ったお店に入