カテゴリー「おすすめ本【あ行】」の記事

2009.12.13

『プリズン・トリック』 遠藤武文

第55回江戸川乱歩賞受賞作。
トリックに関しては、つっこみたいところがありますが、それをひとまず置いて、最後まで読んでしまう作品でした。

凶器を持ち込みにくく、また出入りも管理されているはずの刑務所で起きた、密室殺人。
しかも犯人と思しき受刑者が、脱走している!

それだけでも謎なのに、事件の詳細が明らかになると、新たな謎が現れる。
次から次へと現れる謎に、最後まで読む手が止まりませんでした。

加害者の謝罪と、被害者の遺族の心情。
そして加害者の両親の葛藤。

この二つは、交通事故の罪と現実を描きたいという、筆者の意図がよく現れている場面で、じーんときました。

タイトルを変えたのもよかったです。
応募時のタイトルは、何を描きたいかストレートに分かるけれど、ミステリタイトルとしてはどうかなと。

ラストのどんでん返しも上手いです。

視点がよく変わるのが、少し読みにくかったのが残念です。

読者を最後まで引っ張っていく力はあるので、次はトリックにも説得力を持たせられたら、万人がうなる作品になるのでは、と期待です。

Amazon で詳細を見る

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009.12.03

『土井徹先生の診療事件簿』 五十嵐貴久

24歳キャリア、女副署長、立花令子!
実態は、"大事なお嬢さん"扱いで、役職ばかり高く、仕事のない暇な日々。

そんな中で出会ったのが、動物と「話す」ことができる、土井先生で・・・というお話。

ほのぼのしたミステリーでした。

殺伐した雰囲気がなく、令子を大事にする署長も、ちょっと間の抜けた鳥井刑事も、誰もが和むキャラクター。
民間人に捜査情報を漏らしすぎとか、突っ込んじゃうとだめかもしれませんが、設定を丸ごと受け入れられると、ほんわかした空気が楽しい作品です。

穏やかで懐の広いおじいちゃんの土井先生と、おませでしっかり者の孫の桃子。
頼りない主人公を、上手くサポートしていて、いいコンビです。

舞台の吉祥寺も、場所をイメージできるので、更に楽しいです。

動物と話せるのは、あくまで小ネタ。
動物からの情報ではなく、見聞きした情報から、きちんと推理していきます。

最後の「警官殺し」だけは、すっきりせず、もやもやした読後感でした。
タイトルからして、父の殉職の真相が明らかになるのかと思いきや、目の前の事件の真相すら明らかにならず。

その先は続編で、ということなのかもしれませんが。
続編できちんと明らかにならなかったら、不満が残りますね。

犬猫だけでなく、思いがけない生き物の生態にまで詳しい、土井先生の薀蓄も面白かったです。

Amazon で詳細を見る

 【既読の五十嵐貴久作品】
『パパとムスメの7日間』
『シャーロック・ホームズと賢者の石』
『1985年の奇跡』
『1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター』 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009.11.30

『天国の郵便ポスト』 折原みと

折原みと作品で、しかも天国が絡むと来れば、泣けないわけがありません。
ティーンズの頃も好きでしたけれど、大人向け小説でも魅力が変わらないですね。
期待に違わぬ、あたたかい涙を流せる作品でした。

妻の愛した逗子で、妻の作ったカフェ『nagie』を営む、真人。
来夏が遺した小さな命、湊人を育てながら・・・というお話。

のび太に通じる、ちょっと頼りない真人だけれど、感受性が豊かで、優しい男性です。

来夏の元彼であり、真人を支えてくれるフクちゃん、いっちゃん、テッちゃんも、それぞれ違った魅力のある、男たちです。

天国へ旅立ってしまった相手に、想いを伝えたい。
切ない気持ちと、それを受け止める、周りの人々のあたたかい気持ち。

からっとした逗子の雰囲気と、人情があいまって、とても心地よい作品でした。
赤ちゃんの湊人も、愛くるしいです。

キマグレンの「天国の郵便ポスト」にインスパイアされた小説だとか。

Amazon で詳細を見る

 【既読の折原みと作品】
『制服のころ、君に恋した。』

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009.11.25

『パパとムスメの7日間』 五十嵐貴久

ひょんなことから、父と娘の「体」と「ココロ」が入れ替わってしまった!
会話もほとんどなかった二人が、各々の暮らしを守るため、協力し合うことになり・・・というお話。

なんとも痛快で、楽しくて、ハートウォーミングな作品でした。
ドラマ化もされているようです。

男女の入れ替わり話は他にもあるけれど、断絶した父と娘というのは、格別厄介です。

洗濯物ですら一緒にして欲しくないというのに、父がお風呂で自分の体を洗うなんて!
女子高生の気持ちも分かるし、親の気持ちも分かるので、どちらも頷いてしまいました。

自分を守ろうとする小梅の奮闘振りも、なんとか女子高生になりきろうとする、父の苦戦振りも、笑っちゃいました。

口も利かない仲だったけれど、心の底から嫌っている険悪さはなく、どこかコミカルな関係。
ボタンを掛け違えただけなのかも、と感じさせる、あたたかさがあります。

波風立てずに調和をモットーとする父と、思ったことは言わずにいられない娘。
お互いが迎えた重要な日に、性格の違いが炸裂。
痛快な結末でした。

冴えないサラリーマンが痛快な結末を導く読後感は、荻原浩『神様からひと言』に通じます。

それにしても、ケンタ先輩と、女子高生になっているパパの読書談義は、どう考えても男同士のノリで、笑ってしまいました。

『パパママムスメの10日間』という続編もあるようなので、探してみたいと思います。

Amazon で詳細を見る


 【既読の五十嵐貴久作品】
『シャーロック・ホームズと賢者の石』
『1985年の奇跡』
『1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター』 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009.11.21

『裁判員法廷』 芦辺拓

タイトルを見たときは、裁判員制度に便乗しただけの作品では、という一抹の不安がありました。
しかし読んでみると、面白いミステリで、その懸念は吹っ飛びました。

もちろん2009年施行の裁判員制度を取り上げているのですが、制度の紹介や、そのための啓蒙的な小説とは、一線を画しています。

話そのものが読み物として楽しい、きちんとしたミステリに仕上がっているのです。

読者は、裁判員法廷二〇〇九に呼び出された「あなた」を通して、三つの事件を見ていくことになります。

登場するのは、若い女性検事・菊園綾子。
対するは、一見ぱっとしない弁護士・森江春策。

きびきびと攻め立てる菊園に対し、どこかテンポがずれ、愛嬌のある、森江の応戦。

法廷でのやり取りは、単に市民向けに分かりやすいだけでなく、二転三転したり、意外な事実が明らかにされたり、推理小説として面白みのある展開になっています。

普通の市民に向けた、新しい検事と弁護人の応酬を描いた「審理」。
閉廷後の、評議室のやりとりをメインとした「評議」。
そして、被告人が罪を認めたところから始まる「自白」。

毎回、違った角度からアプローチしているのも、新鮮味があってよかったです。

森江春策は、事件簿シリーズのシリーズキャラクターとのこと。
他の作品も読んでみたいです。

Amazon で詳細を見る

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009.11.19

『アナン』 飯田譲治/梓河人

ホームレスの流が、ゴミ箱から拾ったのは、生まれたばかりの命だった。
アナンと名づけられた赤ん坊は、周りにさまざまな影響を与えていく・・・というお話。

とにかくアナンが魅力的な少年で、その作品を見てみたい、という気持ちになりました。

心の奥底にあった思いを、告白して昇華させてしまう「力」とか。
神がかった、芸術の才能とか。

一歩間違うと、宗教臭さが漂ってしまう設定だけれど、そう見せないところが上手いです。
ホームレス仲間もあったかいし、早苗親子も損得抜きの愛情を見せてくれし、何よりアナンの純粋さがよかったのでしょう。

子供だけでなく、親まで戸籍と住民票が無くては、正直、こんな風に幸せに暮らせないと思います。
いつ発覚して、過酷な目にあうのかと、最初は冷や冷やしていました。

何事も上手く行く、スピリチュアル・ファンタジーなのだと分かってきてからは、安心して読めました。

ヴェネチアンガラスの描写は美しく、心の中で鶴の湯を、アナンの作品を思い描きました。
本当に、そんな不思議な力を持つ作品を見られたら、と思いました。

Amazon で詳細を見る〈上〉
Amazon で詳細を見る〈下〉

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2009.11.11

『人柱はミイラと出会う』 石持浅海

現代の日本で「人柱」を職業とする東郷と、留学生リリー。
彼らがめぐり合った事件と、その真相とは・・・という連作短編。

工事の人柱、既婚女性の鉄漿、厄年休暇に、知事の参勤交代。
本来あり得ないことを「当たり前の風習」としている日本人たちと、驚くリリーとのギャップが、独特の可笑しさを生み出しています。

意表をついた設定が、なかなか面白いです。

特に冒頭の表題作は、その意表をついた設定と事件に、驚かされました。

ただ話を重ねていくうちに、「風習」のネタ切れ感と、ミステリ的な物足りなさが、なきにしもあらず。

それでも最後の、イースターのオチは、ツボにはまりました。

Amazon で詳細を見る

 【既読の石持浅海作品】
『Rのつく月には気をつけよう』
『月の扉』
『心臓と左手 座間味くんの推理』
『セリヌンティウスの舟』
『扉は閉ざされたまま』
『水の迷宮』
『顔のない敵』

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009.10.29

『1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター』 五十嵐貴久

平凡ながらも、幸せな主婦生活をしてきた、優等生の美恵子。
ところが四十代の半ばにもなって、悪友かおりの思いつきで、バンドをやることになり・・・というお話

ドラムは腱鞘炎になりながら、ギターも指が痛くて泣きながら、とはいえ、とんとん拍子に上手く行きます。
キーボードに至っては、特に苦しむ場面もなかったのでは。
バンドはこんなに簡単なものではない、とつっこむ気持ちはありました。

ただ、普通の"オバサン"だった女性たちが、パートを始めたり、四十の手習いをしたり。
どたばたしながらも変化していく楽しさがあり、後半はテンポよく読めました。

1995年といえば、阪神・淡路大震災に、安室奈美恵の活躍。
タイトルに入れただけあって、その年らしさもちゃんと組み込まれています。

バンドのステージでの、恵美子の言葉遣いには、強い違和感がありました。
どう考えても優等生ではなく、それ以前に、真っ当な女性の言葉遣いではありません。

主婦の恵美子とは真逆の、カッコイイ女性のはずのかおりですが、恵美子にお金を無心する辺り、キャラクターに統一性がないなという気も。

ちらほら気になるところはありましたし、すごく感動というのでもないのですが、素人バンドのノリを楽しみました。

年代を入れている作品では、『1985年の奇跡』の方が好きです。

Amazon で詳細を見る

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009.10.25

『ちりとてちん』 青木邦子

藤本有紀脚本の、NHK連続テレビ小説「ちりとてちん」のノベライズ。
1週を1章にまとめ、全26章で完結。

同姓同名の清美(エーコ)に劣等感を感じる、主人公の喜代美(ビーコ)。
そんな自分を変えたくて、小浜を飛び出し、いつしか落語家の徒然亭草若に入門するのですが・・・というお話。

夫が大好きだった朝ドラなので、一緒に見ていましたが、前半を中心に、ちょこちょこ見逃した回があったよう。
改めて、いいお話だったなとしみじみしました。
プロポーズのシーンを見逃しているのは、特に残念。

若狭(喜代美)は、劣等感に苦しみ、不器用さに悩むけれど、暗いお話になっていないのが上手いところ。
ドラマで七変化していた妄想シーンなど、どこかユーモラスなやりとりや、あたたかい人情がいいのです。

兄弟子たちが個性豊かで、あたたかいのが、またいいのです。

若狭だけでなく、家族も、友達も、兄弟子たちも、周りの人は誰も、起用に上手いこと世渡りしている人はいません。
不器用ながらも、ひた向きな思いに、じんわりと暖かな涙を流しました。

落語とストーリーをよく絡めてあり、落語素人でも面白みを感じられます。
落語の人気に貢献したというのが、よく分かります。

改めてドラマをもう一度見たくなりました。

Amazon で詳細を見る〈上〉
Amazon で詳細を見る〈下〉

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009.10.20

『夏のくじら』 大崎梢

高知のよさこい祭りを舞台とした、青春物語。
爽やかな読後感でした。

東京近郊で育った篤史が、みんなに不思議がられてまで、高知行きを決めたのには、訳があって・・・というお話。

土佐高知といえば、よさこい祭り。
ですが、太平洋戦争後に、阿波踊りに対抗して作られた、というのにはビックリしました。
その分、宗教色がなく、自由度が高くていいのかもしれません。

従兄弟の多朗に頼まれ、渋々参加した、鯨井商店街の新規チーム。
さまざまな人とかかわりあううちに、だんだんとのめりこんで行くのです。

賞金もなく、参加費を払って参加する、よさこい祭り。
それでも人々が熱狂する「何か」があるからこそ、参加者が続き、ボランティアが祭りを支えていく。

仲間と過ごす楽しさ、それぞれの事情、そして4年前のよさこい祭りの想い出の人。

派手な地方車に、振り鳴らされる鳴子。
夏の空と海を思わせる水色と、山北蜜柑のオレンジが舞う。

実際に見たことがないのですが、知らなかったよさこい祭りの魅力が、物語を通して伝わってきました。
夏の熱気、思いっきり動いた後の、心地よい汗が感じられる、清々しい物語でした。

Amazon で詳細を見る

   【既読の大崎梢作品】
『配達あかずきん 成風堂書店事件メモ』
『晩夏に捧ぐ 成風堂書店事件メモ(出張編)』
『サイン会はいかが? 成風堂書店事件メモ』
『平台がおまちかね』
『片耳うさぎ』
『スノーフレーク』

| | コメント (0) | トラックバック (0)

より以前の記事一覧